卓話概要

2021年11月02日(第1767回)
シンク・エイ株式会社 代表取締役
松本浩氏

ゴールを実現するための脳の使い方①

★認知科学を基にしたコーチング
 今日は「認知科学」という科学を基にしたお話になります。
 私の職業はプロのコーチとして、ふだんは数万人の大企業から中小のベンチャーまで、さまざまな業種で、組織を上から下まで変えていく、というようなお手伝いをさせていただくことです。
 認知科学というのは、人工知能(AI)を作るために認知の仕組みを解明した、1980年代に生まれた科学です。認知科学の中には、心理学、脳科学、哲学など、さまざまな学問が含まれています。この認知科学によって、マインド(脳と心)の仕組みが科学的に、コンピュータのプログラムに書き入れられるレベルで分かってきたのです。
 マインドの仕組みが分かったということは、その上手な使い方が分かったということでもあります。認知科学を使って、人のパフォーマンスを引き出して最大限に発揮させる、というのがコーチングの手法です。

★コンフォートゾーンとホメオスタシス
 人間の体温を36℃に一定に保とうとするような働きは、脳の視床下部というところが行っているのですが、この平熱の36℃近辺のことを「コンフォートゾーン」といいます。
 人間は、周りの環境とのやり取りの中で脳が動いて、ある一定の状態を維持しようとします。この元に戻そうとする力を「ホメオスタシス」といいます。
 認知科学の発見は、このコンフォートゾーンやホメオスタシスが、人の心理空間や思考空間の中にある、という発見なのです。
 脳は、慣れ親しんだ状態を維持しようとします。コンフォートは“comfortable(快適な)”からきています。脳にとってcomfortableは慣れ親しんだ状態です。ですから、何かちょっと新しいことをやろうとすると、我々の脳はそれを自己制御しようとする働きがあるのです。
 では、なぜコンフォートゾーンやホメオスタシスがあるのでしょうか。人間も動物も、そのゴールは「生きながらえること」です。そのために牛は毎日同じ草を食べます。キノコを食べたりはしません。死のリスクが上がるからです。昨日と同じ状態を維持しようとします。しかし人間は、調理免許を作ってまで、危険な毒を持ったフグを食べたりします。これが人間のすごいところです。
 これは人間の脳の中の「前頭前野」の働きです。前頭前野は、1年後、2年後などの時間的な推論ができるのです。すなわち、人間は長期の推論ができるので、夢が描けるのです。
 夢を描けるのですが、一方で、生命を維持しようとして、現状を維持しようとする働きがあります。だから、いつも「理想」と「現状」のあいだで綱引きが生じているのです。
 では、どうしたらいいのかといえば、これを逆手に取りたいわけです。つまり、理想側をコンフォートゾーンにしてしまえ、ということです。自分たちの生きたい世界をコンフォートゾーンにしてしまえば、ホメオスタシスはそちらに働くということです。では、どうするか?

★ゴール設定と臨場感
 そのために、やるべきことは2つだけです。
① ゴール設定
 行きたいところを決める、自分の望みを明らかにする、ということです。
② ゴールの世界の臨場感を高める
 「センス・オブ・リアリティ」、つまり実現したときのゴールのリアリティをどれだけ高められるか、ということです。リアリティの高いほうにコンフォートゾーンは作られます。そこにホメオスタシスは働くのです。

★パフォーマンスを最大化する3つの方法
 パフォーマンスを最大化するゴールの設定方法として、次の3つがあります。
① 自分の望むことをゴールとして設定する
 “want to”=ゴールは自分が設定したものであること、かつ自分が望むことです。
 その逆は“have to”=強制や義務感です。これは“creative avoidance(創造的逃避)”といって、できない理由が脳からたくさん溢れ出てきます。
② ゴールは複数持つ
 自分の人生にとって重要なことは一つだけではないはずです。複数あったほうが、未来の自分への臨場感が高まりやすくなります。
③ ゴールはできるだけ遠く、現状の外側に置く
 ゴールを設定した時点では、その実現手段が見えないぐらい遠くのゴール、ぶっ飛んだゴールがいいということです。なぜなら、ぶっ飛んだゴールを置くと、その後にあいだの道筋が見えてくる、というのが人間の脳の仕組みだからです。ゴールを近いところに置くと、脳はそれが現状だと思い、変わらなくていいということになるのです。
 だから、いくつになっても夢はでっかいほうがいいということになります。
 ただし、ゴールは遠いところに置いたほうがいいのですが、実際は、ちょっとずつ、ちょっとずつ動いていくのです。そして結果的にゴールが達成されている、というのがいいやり方です。大物狙いせず、ちょっとやってみる、ということが大事なのです。
 以上の3つが認知科学で分かったことです。