卓話概要

2021年04月20日(第1754回)
みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社 調査本部 チーフエコノミスト
太田 智之氏

世界経済・日本経済の現状評価と将来展望~コロナ禍で加速する社会の潮流変化~

★米中が世界経済を牽引
 2020年は、コロナの感染を抑制した中国がプラス成長で、一人勝ちの状態でした。
 2021年は、アメリカが伸びてきて、米中が牽引する状況になっています。なぜアメリカが成長したのかというと、ワクチンです。いま国民の5割がワクチンを接種しており、6月末までに大人の100%が1回はワクチンが打てる状態になっています。そのため、アメリカの国民は夏休みの旅行の予約をどんどん入れています。それぐらい経済の回復力が早くなっています。
 しかし米中以外の国の経済が、まだ正常化していません。同じ先進国の中でも2極化していて、各国間の格差が広がっている状況です。
 日本は1月に2回目の緊急事態宣言があって、出鼻をくじかれた格好です。そこにルネサスの火災があり、自動車関連の人たちが大変になっています。そこからようやく回復するぞというときに、第4波といわれる再拡大が起きたわけです。

★ワクチンの課題・制約も残存
 もちろんワクチンの効果はありますが、課題・制約も残存しています。世界の楽観論は行き過ぎている部分もあるので、慎重さも必要かと思います。
①ワクチンの有効期間
 現時点でワクチンの有効期間は不明(現時点で確認されているのは6カ月間)。
②ワクチン接種でも残る制約
 ワクチン接種者は接種者同士もしくは少人数(1世帯)との会合は可能。ただし2世帯以上の非接種者との会合や公共の場では、マスクや社会的距離の確保が必要。国内外を問わず旅行は可能な限り自粛。
③変異株に対する有効性
 一部ワクチンで南ア型変異株への有効性低下を確認。各社は変異株に対応するブースターワクチンの開発に着手。
④接種忌避
 米国や欧州、日本などでは3割以上の国民がワクチン接種に反対。

★バイデン政権下の米中関係
 アメリカは中国を叩きたいのかというと、そうではありません。これがバイデン政権の一つのポイントです。アメリカが言っているのは、「競争的共存」です。その中身は、「管理された複層的関係」という言葉で表されていますが、3つあります。
①対立
• 人権(ウイグル)、民主主義(香港)等の価値、安全保障(台湾・南シナ海)=中国の「核心的利益」
• 互いに厳しい姿勢で臨みつつ、(軍事的)対決回避
②競争
•「技術」を中心とした経済的競争:半導体、次世代通信、グリーン等
• 部分的デカップリング進展、米国は同盟国とのサプライチェーン構築
③協調
• 気候変動、核不拡散、北朝鮮など
• 米国は協力の見返りを中国に与えないとの姿勢

 これに対して中国は、どういうふうに出てくるのか。中国からすると引く理由があまりないので、「対立」と「競争」については真正面からやらざるを得ません。「協調」でどこまで窓口を増やしていけるか、そういう戦略に出るだろうと見ています。
 実は中国共産党の基盤は、国内ではあまり強くありません。中国政府は人民の選挙によって選ばれたわけではありませんから、政府にとっては、「人民幸福(経済発展)のあくなき追求」こそがいちばん重要な問題です。もう一つは、「西欧主導の国際秩序への対抗」です。

★コロナ禍で加速する社会の潮流変化
 我々は、今回のコロナ禍は、新しいことを起こしたのではなく、今までの社会の流れを加速させた、という理解をしています。
①ソロ化
・高齢化とともに進行する単身化。薄れる家族のつながり。揺らぐ社会保障制度 ⇒ 自助・共助の比重が増大。
・集団を前提としたコミュニティに不自由を感じる人が増加。特定の目的や趣味を通じた選別されたつながりにシフト。
②デジタル化
・アメリカに比べ、日本は業務オペレーションの改善(=コスト削減)が最多。新規事業創出や新製品開発への活用意欲は低め。
・情報のアクセシビリティー向上が浮かび上がらせる複雑な人間の心理。求められる脱マスマーケティング。
③ライフスタイルの多様化
・長寿社会とはより長く働く社会(引退モデルの終焉)。より長く働くためのスキル(=生産性、活力、変身する力)を身につけるためには、多くのステージを経験すること(=行き来すること)が重要に。
・1人1人が違った働き方を見出し、ライフイベントの内容や順序もそれぞれ異なる多様性に富む社会が到来。

 いずれにせよ、ポストコロナの世界に向けた転換点として、虚心坦懐に現実をとらえる姿勢が不可欠だと思います。
──「真実の追求は、誰かが以前に信じていたすべての〝真実〟の疑いから始まる」(フリードリヒ・ニーチェ)