卓話概要

2021年09月21日(第1763回)
一般社団法人 健康長寿実現推進機構 理事長・理学博士 東海林 義和氏
/同 統括室長・管理栄養士 森 京子氏

大麦は日本を救う~健康増進と食料安保・農業・地域振興の道

★「大麦物語」と「東京物語」(東海林氏)
 私は「大麦物語」というのを提唱していて、「大麦物語」と併せて、「東京物語」というのも商標登録しています。大麦は地方の話ではなく、東京問題そのものであると考えているからです。健康と食料安全保障は、日本が背負う大きな課題ですから、そのような気持ちを込めて活動を進めています。

 大麦は、5千年~1万年ぐらい前から、我々の先祖が主要な穀物として食べてきた食品です。それを今、たかだか50年ぐらいの間で壊滅的な食品にしてしまいました。
 大麦は、50年前までは、年間250万トン近く栽培されていましたが、現在は、わずか17万トン(酒用10万トン、麦茶用・食用7万トン)程度です。
 歴史的に見ると、徳川家康は健康志向が強く、将軍になってからも食事は質素で、麦飯を好んで食べていたと言われています。
 また、明治時代の軍隊で脚気の患者が多かったことに対し、脚気栄養説の高木兼寛(海軍軍医、東京慈恵会医科大学の創設者)と脚気細菌説の森林太郎(陸軍軍医、森鴎外)との間で論争があり、結果、大麦食を採り入れた海軍には脚気の患者が少なく、陸軍に脚気の犠牲者が多く出たことが知られています。

★大麦のセカンドミール効果(森氏)
 大麦の健康機能性については、米国、カナダ、欧州、豪・NZ、韓国など、世界各国でその科学的根拠が認められています。日本でも大麦は、機能性表示食品として35件受理されています。
 大麦に含まれる健康機能性の中でも、特に優れているのが、水溶性食物繊維(β-グルカン)です。この水溶性食物繊維を摂取することで、次のような効果があると言われています。

1) お腹の調子改善、お肌の大敵解消、腸内善玉菌が増加、大腸がんを予防
2) ポッコリお腹が凹む、満腹感の持続、内臓脂肪が減少、メタボを予防
3) コレステロールが低減、高脂血症を予防
4) 糖尿病を予防、高血糖値が低下
5) 高血圧を予防
6) 腸管免疫機能が増進

 では、大麦ご飯を食べてみようと思った人でも、毎食、大麦ご飯を食べられますか? 1食ぐらいなら食べてもいいけど、毎食は食べられないという人が多いのではないかと思います。
 ところが、大麦のすごいところは、毎食食べる必要はないということです。それを「セカンドミール効果」といいます。朝ご飯(ファーストミール)に大麦を食べると、お昼(セカンドミール)や晩ご飯(サードミール)に大麦のないご飯を食べても、血糖値が上がりにくいという効果があるのです。なぜなら、大麦は非常に長い時間をかけてお腹の中で消化していくからです。そのため、1日1食であってもしっかり大麦を食べれば、血糖値が1日中、上がりにくくなるというわけです。

★もち麦100%の美味しい食べ方(森氏)
 麦ご飯以外で、大麦を美味しく食べるために、
*1食でたっぷり食べられる
*美味しく無理なく食べられる
*簡単に調理できる
というコンセプトで、「もち麦100%調理の美味しい食べ方」というレシピを作りました。
 ちなみに、いま農水省で開発している「もち麦」は、私たちの親の世代が食べていたような、まずい麦とは違います。モチモチしてとても美味しいので、ぜひ食べてみてください。
 炊いたもち麦の使い方としては、ギョーザに包んだり、カレーピラフやポテトサラダにしたり、お肉と炒めて肉みそにしたりします。
 粒のもち麦は、トマトリゾット、中華風、韓国風チゲ、クリームリゾットなどにします。25分ぐらいとろ火で煮込むだけです。
 また、もち麦を粉にすると、ピザ、ホットケーキ、すいとん汁などにできます。

★地域循環型経済で日本を救う(東海林氏)
 現在、日本人の大麦の年間摂取量は0.3kgで、1日に1gも食べていないことになります。これを1日30g、お茶碗に3分の1位食べることにより、健康を大いに改善することができます。
 お米は100%自給ですが、大麦の自給率は8%で92%が輸入です。小麦は87%、大豆は93%が輸入されています。国民の健康と食料安全保障上に重要なこうした穀物は、耕作放棄地を活用していけば、十分国産で賄えますので、今後は大事にしていきたいものです。
 また、これからの時代は、企業価値や株主の利益を最大化する「株主資本主義」ではなく、格差是正や環境問題に貢献し、より長期的な成長を目指す「ステークホルダー資本主義」に移行すべきだと思います。
 それは、関係する人たちみんなが潤うような、いわゆる「三方よし」の「公益資本主義」です。自由市場やグローバリゼーションでなく、地域循環型の経済によって、日本の農業と食料を守っていくべきだと思います。