卓話概要

2022年03月08日(第1777回)
ホテルニューオータニ総支配人室課長9 Stars Project 担当
佐藤智子氏

Forbes格付け評価「9つ星」ホテルとしてのニューオータニ~Withコロナ時代に選ばれるホテルになるために

★なぜ「9つ星」が必要だったか
 私どものホテルは、「ザ・メイン」「ガーデンタワー」「ガーデンコート」の3つの建物からなっています。その中で「ザ・メイン」が、Forbesの「4つ星」という格付けをいただいています。
 さらに「ザ・メイン」の中に、ホテル・イン・ホテルとして「エグゼクディブハウス 禅」という特別なホテルがあります。こちらが「5つ星」を頂戴しており、合計で「9つ星」を持つホテルであることを、ホテルニューオータニとして発信しています。
 ホテルニューオータニは、1964年の東京オリンピックの年に、大谷米太郎によって創業されました。当時、17階建てのホテルは、東洋一の高さを誇っていました。
 1964年当時、35万人だった訪日外国人の数は、2018年には、国の観光立国政策もあり3100万人、約100倍の数になっていました。その追い風を受け急増する外国人ゲストにニューオータニを選んでいただきたいという思いが、私どものホテルの中で強まりForbes格付け評価への挑戦が始まりました。
 ホテルニューオータニは、敷地面積20,940坪、日本庭園10,000坪、レストラン&バー37店舗、宴会場33会場、客室数1479室という規模を誇ります。「一つの街のようなホテル」を自任していますが、そこで課題となるのが規模とクオリティの両立です。規模の大きさを言い訳にクオリティを諦めてはいけないと決意をしたことも、「9つ星」を取ろうとしたきっかけの一つでした。
 規模も大きいけれどクオリティもしっかりしている、しかもグローバル・スタンダードにかなったクオリティである、ということを客観的評価によって証明するために、Forbesの格付けに取り組んでいるのです。

★なぜForbesの格付けに取り組むのか
 アメリカの経済誌『Forbes』の旅行部門が、毎年1回、ホテルの格付けを発表します。1958年にアメリカで創設され、世界で初めてホテルの評価に「5つ星制度」を導入し、信頼性が高く、伝統ある格付けとされています。
 格付けは毎年更新され、2021年2月には、世界100か国250都市1300のホテルの格付けが発表されました。
 Forbesが派遣するインスペクター(覆面調査員)が、ホテルに2泊3日滞在し、14部門、最大500個のチェック項目を厳格に審査します。
 そのチェック項目のうち、75%がハードではなくソフト、サービス面に関する格付けなのです。しかも、よりパーソナルなサービス、お客様お一人おひとりに寄り添ったサービスをチェックされます。具体的には、
*お名前を呼んだか?
*満足度を確認したか?
*他にお手伝いできることがないか聞いたか?
*楽しい時間を願う言葉を添えたか?
といった点ですが、行きつくところは“Customer Perspective(お客さまの目線)”ということになります。
 「星」はいただいているのですが、もちろん完璧ではありませんので、スタッフ一同、日々、このお客様目線にたったクオリティを追求しています。

★コロナ禍で改めて問われること
 コロナ禍で私どもが忘れてはならないことは、業界の生き残り競争が激化する中で、お客様の1回の旅の重要性が非常に増しているということです。
 「自粛疲れでリラックスしたい」「友だちと会う機会を減らしている。今日はその貴重な1回だ」「どうしても外せない用事がありホテルに来た」「家族の反対を押し切って東京に来た」「大切な人をコロナで亡くした。コロナは怖いけれどホテルに来た」…といったような、さまざまな理由でお客様にお越しいただいているということを理解し、そのお客様のお気持ちに寄り添えるようなパーソナルなサービスが必要だと思っています。
 最近、“Safety is the new Luxury”ということが言われています。“Luxury”といえば、これまでは「豪華さ」であったり、「きらびやかさ」であったりしたかもしれませんが、いまお金を払ってまでも本当に欲しいものは、「安全性」だということです。
 コロナ禍で直接会う機会は減らさざるを得ない状況ですが、人々が「実際に会いたい」という欲求は普遍的なものだ、と私どもは考えています。
 昔、電話が発明されたとき、これからは人が会うことは減るだろうと言われたのですが、実際に電話でいちばん話されたことは、「次に会う約束」だった、というエピソードがあります。
 アメリカの25セント硬貨の肖像にもなった詩人のマヤ・アンジェロウさんに、次のような言葉があります。
「人は、あなたが何を言ったか、何をしたかは忘れるでしょう。
 でも、あなたがどんな気持ちにしてくれたかは、決して忘れることはないでしょう。」
 私どもが「より選ばれるホテル」になるためには、想像力を豊かにして目の前のお客様のお気持ちに寄り添う、そういったクオリティを磨いていく必要があると考えています。