2024年7月~12月
2024年1月~6月
2023年7月~12月
2023年1月~6月
2022年7月~12月
2022年1月~6月
2021年7月~12月
2021年1月~6月
2020年7月~12月
2020年1月~6月
★大学院でプラットフォーム戦略を教える
私が日本でアマゾンを立ち上げたのは20年以上前です。私が携わったのは、スタートアップの時代で、すでに紀伊國屋さんとかいくつかオンラインブックストアがあったので、今からアマゾンが来ても遅いのではないか、経営的にも危ないのではないか、などと言われました。それが今ではアマゾンは大企業に成長していて、私も辞めなければよかったな、と思っている次第です(笑)。
私は現在、ベイシステック合同会社の日本法人代表を務めながら、法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科で講師もしています。大学では、アマゾンのようにプラットフォームを作ることによって、事業をスケールさせるプラットフォーム戦略を教えています。今日はそういう観点からお話をさせていただこうと思います。
★プラットフォームとは
「プラットフォーム」というのは、少なくとも2つの市場をつなぐことによってネットワーク効果を生む、2つの市場の間での価値の交流をいかに促進するか、というものです。
プラットフォームは、「さまざまな機能を提供する基盤ビジネス」というふうに捉えがちなのですが、プラットフォーム戦略上では、交流を促進させるビジネスで、交流がネットワーク効果によって拡大するためのさまざまな機能を提供するもの、というふうに考えていただければと思います。
★Airbnbにおけるビジネスモデル
プラットフォームの例として、宿泊業のAirbnb(エアビーアンドビー)があります。観光地や大都市などの空いている部屋を貸すビジネスです。このビジネスモデルは、ホスト(空き部屋を持っている人)の部屋を、ゲスト(借りようとする人)に貸すだけで、基本的に自分で資産を持たない形です。
Airbnbにとってのいちばんの価値は、魅力的な空き部屋リストを持つことです。ホストが増えるとさらにリストが充実していきます。リストが充実するとゲストも増えていく、ゲストが増えるとホストも増える、こういった相乗効果(ネットワーク効果)が生まれます。これをホストとゲストの市場をつなぐ「2面市場プラットフォーム」と呼んでいます。Airbnbのビジネスモデルは資産を必要としないので、ネットワーク効果により事業が雪だるま式にどんどんスケールしていくという特徴があります。
★アマゾンも最初はオンライン書店だった
プラットフォームの多くは、最初からそうだったわけではなく、当初はプラットフォームということは全く想定されていないケースがほとんどだと思います。
私が日本で立ち上げたアマゾンも同じで、最初はオンライン書店でしかなかったのです。強味といえば、リアル店舗を持っていないこと。顧客への価値は、価格、品ぞろえ、利便性です。
和書は再販制度があるので値引きができませんでしたが、洋書は30~40%オフで売っていました。取次は大阪屋さんと取引をしていて、10万冊ぐらいの品ぞろえがあり、そのうちの6万点ぐらいは、2~3日で届けられるようにしました。
そのうち、本だけでなくCDやDVD、VHSなどもデリバリを始めました。商品の仕入れ先も増やしていきましたが、スタートアップだったこともあり、基本的には自分たちの在庫を売っていくというビジネスでした。
★大きなステップ
そうした中で画期的だったことは、中古品など、自分たちの在庫でないものも、同じページで表示できるようにしたことです。Airbnbの2面市場と同じように、他の売り手も消費者に物を売ることができる、それをアマゾンのプラットフォームを使ってできるようにしたのです。自分たちの在庫を持たずに、指数関数的なネットワーク効果を生むようにした、というのが大きなステップだったと思います。
さらにAWS、Kindle、Amazon Prime、Amazon Musicといった多面市場、複合的なプラットフォームに発展させることができたのです。
★アマゾンのキャッシュフロー
アマゾンを財務的に支えていたのは、キャッシュフローです。
アマゾンの場合、品物をサプライヤーに発注すると、だいたい60日ぐらいで支払いが生じます。逆に言えば、60日まで支払わなくてもいいということになります。顧客へ出荷したらキャッシュが手に入るので、平均すると、23日分のキャッシュが手元に残ることになります。つまりアマゾンの売上高の23日分が常にキャッシュとして手元にあるので、銀行からお金を借りる必要がないのです。取引が増えれば増えるほど、手元にキャッシュが溜まるわけです。
アマゾンの場合、将来の投資にこのキャッシュを注ぎ込むことができて、それで多面市場をどんどん作ることができたということです。そういう形で、指数関数的な成長をずっと遂げてきた、というのが彼らの成功のカギです。