卓話概要

2024年10月15日(第1871回)
株式会社フォーナレッジ代表取締役
加藤綱義氏

中小零細企業の事業承継・M&A~実態と実例

★事業承継問題とは
 弊社は名古屋市に本社を構えています。中小企業庁のM&A登録支援機関や一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(正会員)として活動しています。創業して13年目になります。
 2017年に政府が「大廃業時代」という言葉を使い始めました。それは、2025年までに平均引退年齢70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人になる、そのうち約半数の127万社(日本企業全体の1/3)が後継者未定であり、そうした企業が廃業する、というものです。
 そして、このような問題を放置した場合、約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性がある、というシミュレーションでした。
 この頃から、マスメディアなどで「事業承継問題」「後継者不在問題」が言われるようになってきました。

★規模別M&Aプレイヤー
 こういった問題を背景にして、規模別に今のM&Aプレイヤー(アドバイザー)を見ていくと、次のように分類することができます。
①取引価格50億円以上
 証券会社、銀行
②10億円以上
 上場仲介会社(日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライク 等)
③1億円~10億円
 M&Aブティック、監査法人、会計事務所(不動産会社、保険代理店、人材関連会社 等、新規参入が活発)
④1億円以下
 プレーヤーがまだまだ少なく認知度も低い。マッチングサイト(トランビ、バトンズ、ビズリーチ、スピードM&A 等が参入)

★M&A業界の実態
 中小企業庁が3年ぐらい前から「M&A登録支援機関」という制度を始めています。基本的には書類を提出して登録すれば、誰でも今日からM&A業者を名乗ることができるのです。
 令和6年9月18日現在で、登録数2,809件、そのうち個人事業主が24.6%となっています。3月比でマイナス323件ですから、ピークは過ぎたのかなと思います。
 専従者別にみると、2人以下が72%という小規模の業種で、設立年代別に見ると、2020年代が54%となっています。
 ちなみに、M&A業者の上場企業の平均年収を見ると、M&Aキャピタルパートナーズが2,688万円、ストライクが1,433万円、日本M&Aセンターが1,243万円となっています。平均年齢が32歳~35歳、平均勤続年数は2.5年~3.4年です。仕事のできる人は2~3年稼いで独立、独立しない人も3年前後で会社を辞めていくのです。
 これを見ると、マッチングビジネスになっているのが、今の大手M&A業界の実態だということが分かります。ですから30歳ぐらいになると、各業界からM&Aは儲かるぞというので、転職の受け皿になっている業界でもあります。

★ほとんどは友好的M&A
 今はほとんど無くなりましたが、かつてはM&Aに対して、「敵対的買収」「マネーゲーム」「乗っ取り」「ハゲタカ」「経営不振」といった誤解・イメージがありました。しかし、今では「経営戦略」というイメージが認知されています。
 中小零細のM&Aにおいては、基本的に合意が前提になっていますので、99.9%は友好的M&Aです。敵対的M&Aはニュースやドラマになって、目立っているだけです。

★売主・買主のメリット
 M&Aにおける売主のメリットとしては、次のようなことが挙げられます。
① 従業員、取引先、お客様を継承
② キャピタルゲインを得て引退
③ 事業の拡大と発展(もしくは安定)
 一方、買主のメリットとしては、
① 経営資源(ヒト・モノ・ノウハウ)をスピーディーに獲得
② リスクの低い経営が可能

★M&Aがもたらす社会的意義
① 雇用の継続
② 後継者問題の解決策
③ 開廃業率への貢献
④ 起業家精神の高承
⑤ 顧客や取引先の継承
 これらは、廃業・清算をするよりも社会的経済価値があるということになります。

★M&Aの対象
① 会社全体
② 一部門や事業
③ 在庫や設備
④ 免許・認可
⑤ 看板(ブランド)
⑥ 技術(特許)
⑦ ノウハウ・レシピ
⑧ 人財
⑨ 取引先・顧客
⑩ 社歴・業歴
【M&Aの対象外】
① 人間国宝の工房(弟子なし)
② オーナーシェフの三ツ星レストラン
③ 家業(事業になっていないもの)