卓話概要

2025年01月28日(第1881回)
東京大学名誉教授
月尾嘉男氏

中東4000年の歴史

★ユダヤ人とノーベル賞と映画
 世界には信者数の多い宗教が3つあります。キリスト教、イスラム教、ヒンズー教ですが、それ以外に信者数はわずかですが、世界に影響力のある宗教が今日ご紹介するユダヤ教です。
 ユダヤ教の歴史はたいへん古く、日本の神道よりも古くからある宗教です。ところがユダヤ教の信者は世界で1500万人しかおらず、その中心のイスラエルには約800万人が生活し、それ以外にはアメリカに多くが住んでいます。
 ユダヤ人には頭のいい人が多く、ノーベル賞の中でも、理系の物理学、化学、生理学・医学の分野では、受賞者のうちの約4人に1人がユダヤ系です。その他、文学賞や平和賞でも錚々たる人物が受賞しています。
 ユダヤ人は世界の金融業界でも力を持っていますが、もう一つ、ユダヤ人が非常に力を持っているのが映画産業です。亡命したユダヤ人がアメリカ東部から西海岸まで移動し、そこで始めたのが映画産業で、その中心がハリウッドです。パラマウント、ワーナー、コロンビア、MGMなどの大映画会社を作り上げたのです。

★1800年間「流浪の民」に
 ユダヤ人は元々シナイ半島に住んでいたのですが、大変な飢饉になったので、エジプトに移住しました。しかしエジプトでは、生まれた男子はすべて殺すという制度の中で、奴隷として生活していました。
 その中で、ただ一人モーゼだけが男子として生き残り、ユダヤ人を引き連れて紅海を横断する「出エジプト」をして、モーゼと共に渡ってきた人たちが、イスラエルに定住することになります。
 そこに新しいイスラエルの王朝ができ、ダビデが第2代の王になります。その次に賢王と呼ばれるソロモンが第3代の王となり、第一神殿を造りました。そこに納められた聖櫃(アーク)にはモーゼの「十戒」を記した石板が入れてありましたが、後に行方不明になってしまい、エチオピアの山奥にあるという説もありますが、現在でも発見されていません。映画「インディージョーンズ~失われたアーク」はその発見を題材にしたものです。
 ちなみに、モーゼの「十戒」は、10のうちの初めの4つがユダヤ教の特徴的な内容です。

  1. モーゼ以外に神を信じてはいけない。
  2. 偶像を造ってはいけない。
  3. みだりに神の名を唱えてはならない。
  4. 安息日を聖なる日として守ること。

 その後、紀元前930年に国が、イスラエル王国とユダ王国の2つに分かれてしまい、そこにつけ込んだ新バビロニア王国によって占拠され、100数十年の間、多数の人々がバビロンに幽囚され苦しめられます。
 その後、再び新しい国が創られ、紀元前515年にダリウス一世によって第二神殿が造られます。
 しかしローマ帝国が勢力を拡大して侵攻してきた結果、135年にユダヤ王国は滅亡します。第二神殿もローマ軍に破壊され、辛うじて遺った神殿の壁の跡が、現在の「嘆きの壁」です。
 その後、1948年までの約1800年の間、ユダヤ人は国家を持たない民族として生活してきた、という歴史です。

★なぜ中東で紛争が絶えないのか
 13世紀末、現在のトルコを中心として地中海全域を支配するオスマン帝国が興ります。1683年にはその領土が最大となり、3000万の人々が住む大帝国となりました。
 その大帝国が20世紀になって、イギリス、フランス、ロシアに攻められついに崩壊します。現在の中東で頻繁に民族紛争が発生する背景です。
 1915年~17年の間に、イギリスが二枚舌外交で、ユダヤの人々にも、トルコを中心とするイスラム教徒の人々にも曖昧な仲裁をし、それが原因となって、いまだに紛争が絶えないのです。
 第2次世界大戦が終わって、イギリス、アメリカ、フランスなどが中心となって、パレスチナとイスラエルが支配している全域の調停を開始し、1948年にイスラエルが独立国家になりましたが、その直後から1973年まで4度の中東戦争が起こって、一時は平穏になりましたが、以後も何度も紛争が起こっているのは、そのような背景があるからです。
 ガザ地区とヨルダン川西岸地区に650万人近いパレスチナ人が住んでいたのですが、2023年からイスラエルとハマスが戦闘状態になっているのが現在です。