卓話概要

2024年09月10日(第1867回)
会員卓話
大西利佳子会員

加速する労働市場の流動化~実情と展望─雇用の流動化が日本を救う─

★人が変われば企業が変わる
 前職の長期信用銀行(現・新生銀行)が一時国有化されて、最終的に外資ファンドが株主に変わったことで、組織が劇的に変わりました。それまで変わろうとしていた組織が、一瞬で変わったことを目の当たりにし、「人が変われば企業が変わる」ことを実感しました。その経験から、人の部分でさまざまな企業の課題を解決したいと思い、今の人材ビジネス「コトラ」を自ら起業しました。
 最近は、この「人が変われば企業が変わる」と、タレントマネジメントの側面から「仕組みが変われは、人が活きる」というキャッチフレーズとを併せて、この両輪でやっていこうと思って会社を運営しています。

★麻布台ヒルズに会社を移転
 私が事業を始めたのは2002年ですが、人材紹介業界の市場規模は、この20年で7.3倍に、平均手数料も2.6倍となり、日本の成長産業の一つとなっています。
 それと歩調を合わせて我々も業績を伸ばして、100人弱の規模の会社に成長してきました。そこでこれを機会に、「第二創業」のつもりで、2024年8月に麻布台ヒルズに会社を移転し、心機一転を図っているところです。

★経営課題の第2位は「人手不足」
 15歳~64歳の生産人口は、約7,400万人(2020年)から5,300万人(2050年)へと約3分の2に減少すると予測されており、企業は今後、これを前提に労働力の確保が求められることになります。
 もう一つは産業構造の変化です。2030年には、生産職が90万人、事務職が120万人過剰になると予測されています。それに対して専門職は170万人不足し、そのミスマッチが拡大するだろうと言われています。
 2024年の経営課題として、「人手不足」が第2位になっており、2022年~2023年の1年間で14.4ポイントも上昇しています。それに伴って有効求人倍率も高止まりしています。

★大企業による中途人材の獲得が本格化
 加えて、大企業による中途人材の獲得が本格化しています。それによって中小企業を中心に、ほとんどの企業にとって人材の確保が困難になってきています。2017年の資料では、大企業と中小企業の中途採用者数は拮抗していましたが、我々が見るところでは、この5年間で大企業が大きく逆転していると思われます。
 中でも、サスティナビリティ関連の求人は毎年倍増し、2017年~2022年の5年間で30倍に成長しています。
 たとえば、二酸化炭素を計測する技術を持っているとか、二酸化炭素がどこでどのぐらい出ているというサプライチェーンを把握できるとか、そういう人材がコンサルティング会社や金融業界などに転職しています。
 労働力が不足する中、特に高スキルの専門職と、人でしか提供できない対人・対物サービス領域での人材不足が顕著になっています。AIによる代替の影響もあり、労働市場の両極化が起きているのが現状です。

★「ジョブ型人事指針」
 政府が社会の仕組みを変えることで、経済活動が大きく影響されているように思います。
 たとえば、2016年5月にSDGs推進本部が設立されると、SDGs一色に、同年9月に働き方改革実現推進室が設立されると、働き方一色に、そして2019年6月に雇用制度改革として政府が大企業の中途採用・経験者採用を推奨したことで、一気に中途採用者数が増えたのです。このように社会の価値観やイデオロギーは短期間で一気に変わってしまいます。
 そして今年、2024年6月21日に、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年版」が閣議決定されました。
 それによって、日本企業の競争力維持のため、各企業が自社のスタイルに合ったジョブ型人事の導入方法を検討できるよう、多くの事例を掲載した「ジョブ型人事指針」が出されました。(ジョブ型≒プロフェッショナル≒ハイクラスの移動の時代+AI)
 このように「ジョブ型人事」をやろうと政府を挙げて言い始めていることから、大企業が一気にやり始めているというのが今の状況です。
 「ヒト」「モノ」「カネ」のうち、これからの経営で最も希少な資源は「ヒト」です。企業は人材に関する多様な課題を解決し、企業価値を上げることが求められます。それらを総称して「人的資本経営」と呼ばれています。

★「コトラ」の人的資本経営
 我々の会社「コトラ」も、組織・人材に対する課題解決ノウハウをもとに、2020年より社内に専門チームを組織して、人的資本経営への取り組みに着手しています。
 2024年2月には、「People Fact Book 2023」を作成して、経営戦略、人材戦略、KPIの関係を明確にし、採用関連KPIを追加するなど、全29ページ、24項目の開示に拡充しました。今後、我々自身も人的資本経営を加速していきたいと思っています。