卓話概要

2025年02月18日(第1883回)
NPO法人パブリック・アウトリーチ上席研究員 科学技術コンシュルジュ
諸葛宗男氏

原子力発電の今後の課題(パート2)

★第7次エネルギー基本計画が閣議決定
 政府は昨年12月17日に第7次エネルギー基本計画(エネ基)を公表し、本日2月18日に閣議決定しました。特徴は3つあります。

  1. 原子力政策を大きく転換
    再エネ比率を初めて最大化しました。すなわちこれまで最大だった火力は23年度実績69%を2040年には30~40%に減らし、再エネは23%を40~55%にほぼ倍増させて最大化し、原子力は8.5%を20%にしています。
  2. 電力需要を拡大
    22年度実績より電力需要を1〜2割増加させました。需要を増加させたのは約20年ぶりです。生成AIやデータセンター(DC)需要の増加が原因です。このため2040年の発電電力量は1.1兆〜1.2兆キロワット時としています。
  3. 原子力を最大限活用していく
    「原子力依存度を可能な限り低減」を削除して「安全確保を前提としつつ最大限活用していくこと」としました。思い切った政策転換です。

★福島第一事故の教訓
 これからの原子力における日本の最も重要な役割は、福島の事故の教訓を後世に、そして世界中に伝えていくことだと思います。
 福島第一事故の教訓は以下の4点です。

  1. 事故を想定すべし(安全神話の否定)
  2. 炉心冷却機能強化(核燃料冷却は必須)
  3. 新設炉へのコアキャッチャーの具備
  4. 事故発生確率は常に下げ続ける(終着駅は無い)

★原子力発電所増設の必要性
 原子力発電所の増設はどうしても必要です。現在40年運転で行っていますが、それを60年運転に延ばそうと申請している原子力発電所が多いです。そのうち80年運転になるだろうと言われています。
 仮に80年運転に延びたとしても、2050年過ぎには原子力発電所は減っていくのです。第7次エネルギー基本計画では、原子力を20%まで増やすと言っていますが、そうするためには5基増設が必要です。私たちは40%まで原子力の比率を増やすべきだと思っていますが、まだ基本計画には取り入れて貰っていません。
 2050年に原子力比率を40%にするにはそれまでに40基の増設が必要です。30%なら20基、20%では5基の増設が必要です。原子力発電所を1基建てるのに、だいたい30年ぐらいかかりますから、今から増設に踏み切らないと間に合わないことになります。
 ですから第7次エネルギー基本計画に、原子力発電所の増設を盛り込んでほしかったのです。必要だということは文章に書いてありますが、世論がまだそこまで行っていないということで、具体的な増設基数までは書いてもらえませんでした。

★原子力はグリーンなエネルギー!?
 原子力発電所建設のネックの一つが最終処分場です。最終処分場はすこぶる評判がよくありません。
 ところが高レベル放射性廃棄物の放射能は急速に低下します。「原爆を持ち込むな」と言われますがナンセンスです。

  1. 日本の処分場の高レベル放射性廃棄物は原理的に核爆発しない
    再処理して核物質のウランとプルトニウムを除去しています。だから処分場では原理的に核爆発が起きようが無いのです。
  2. 日本の処分場をIAEAは査察しない
    IAEAの査察は核物質が盗取されていないことを確認するためです。そのIAEAには日本の処分場の査察予定がありません。それを裏返して言えば、日本の最終処分場のHLWを盗んでも、原爆を造れないことが国際的に認知されているのです。

 ヨーロッパでは、原子力をグリーンなエネルギと認めるかどうかという論争が長くありました。欧州議会は2022年7月6日、グリーン事業への投資基準「EUタクソノミー」において「地球温暖化の影響を緩和する(補完的な)委任法令に、一定条件下で原子力関係の活動を加えるとしたEC提案に異存はない」と発表しました。

★「核無き世界」と解体核費用
 あまり知られていないことですが、アメリカの原子力発電所の燃料費のうちの約4分の1、24%はロシアからの購入です。ロシアは世界の濃縮ウラン市場の約46%というトップシェアを持っています(2位はウレンコの30%、3位はフランスの13%、4位は中国の11%です)。
 また「メガトンからメガワットへ」という原子力の平和利用を象徴する画期的計画が進んでいました。ロシアの解体核から出るPu 30トンをMOXに加工してアメリカの原発の燃料として使うというプロジェクトが2007年に話題になりましが、MOX加工施設MFFFの建設費が3.5倍に膨れ上がり2019年に建設が中止されてしまいました。
 「核無き世界」の実現には解体核の膨大なコストが必要です。米国でさえ核開発に膨大なコストをかけた上、解体核費用まで負担する余裕はありません。核無き世界の実現促進には、国際社会が解体核費用の一部を負担する覚悟が必要だと私は思っています。