卓話概要

2024年06月04日(第1857回)
NPO法人パブリック・アウトリーチ上席研究員、科学技術コンシュルジュ
諸葛宗男氏

原子力発電の今後の課題

★突然発生したエネルギー危機
 現在、国が原子力発電所の再稼働を認めて動いているのは12基だけで、2020年は国の電力供給の約4%しか賄っていないのが実情です。福島の事故が起きるまでは、2割ぐらい賄っていました。
 2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻して戦争となり、2年以上が過ぎました。戦争は東西両陣営の対立の図式となり、国連機能も麻痺しています。
 ロシアが西側へのエネルギー資源を絞り、まずドイツが大変なエネルギー危機となり、その危機が、瞬く間に世界中に伝播しました。
 それを解決できるのは、化石燃料だけでは無理で、原子力に頼らざるを得ないということで、原子力の需要が、2050年までに11倍になると言われています。
 日本では、福島の事故の後、原子力比率がどんどん下がって、2014年でしたか、一時期ゼロという年もありました。ところがこのエネルギー危機になって、政府はようやく重い腰を上げて、原子力を進めるということを岸田総理が言い始めた、というのが現状です。

★COP28で原子力3倍宣言が出された
 驚いたのは、去年暮れのCOP28で、2050年までに原子力を3倍に増やそう、という計画が米国から提唱され、日本を含む23か国が賛成したのです。
 これは日本にとっては、2020年の発電量(388億kWh)と発電比率(3.9%)を基準にしたものになるので、2030年の日本の目標(1880~2055億kWh、発電比率20~22%)を達成すれば、軽く3倍以上となるので、2050年の3倍という目標は達成できることになります。

★国の原子力政策は変更されつつある
 岸田総理は、次の4つの項目で原子力を増やそうと言っています。

  1. 既設炉の再稼働
     ※懸念材料は能登半島地震の影響
  2. 発電所の新設
    ①リプレース機の建設
    ②革新炉(軽水炉)の建設
    ③新型炉の建設
    ※福一事故の教訓を活かした“革新炉”建設の実現が鍵
  3. バックエンドの整備
    ①再処理工場の操業
    ②中間貯蔵施設の建設・操業
    ③最終処分場の建設・操業
    ※いずれも前進している
  4. 理解度の促進
     ※安定した操業実績の積み上げが地元の理解度促進に必須
    安倍政権時代のエネルギー基本計画にある“可能な限り原発依存度を低減する”という言葉は時代遅れで、抹消してほしいと思っています。

★原発の運転年数の見直しは時宜に適っている
 以前の法律では、原発の運転期間は40年で、1回だけ延長を認めて、20年延長しても60年が最長となっていました。去年の国会で決まった法律で、それを撤廃することになり、30年過ぎたら10年おきに運転期間の見直しをするということになりました。日本でも80年運転が夢ではないという時代になったのです。
 そして設置変更申請を審査している間、すなわち国が審査をしている期間は、運転期間から除外するということが決まりましたので、それを適用した場合、私の試算では、既設発電所の発電量は約2割、400億kWh増えるということになります。

★FITに約25兆円投入も育った企業はゼロ
 再エネ発電会社は、発電単価が市場価格より高いため、FIT(固定価格買取制度)によって国が買い上げています。
 しかし、REIT理事長の山地憲治氏が、2022年10月11日にエネルギー戦略研究会(EEE会議)で、「再エネにはFITで莫大な国費を投入したが国内企業は1社も育っていない」と語っています。
 また、2023年10月23日の産経新聞の「正論」欄に載った竹内純子氏の記事には、「FITによる買取額は総額で24兆7千億円にもなり、その大部分が国民負担になる」とあります。

★原子力再活性化に向けた課題は山積
 立地サイトの選定と合意取得、人材と技術ノウハウが傷んだ元請けやサプライチェーンの修復等、原子力界には課題が山積しています。

  1. 最重要課題は安全性向上
  2. 日本製革新炉を建設すべし
  3. 原子力の再興には地域の理解確保が不可欠
  4. 既設施設の安定操業と廃炉を順調に推進すべし
  5. 人材育成、サプライチェーンの維持・強化
  6. 国際連携を通じた研究開発推進

 突然発生したエネルギー危機で、ようやく原子力にフォローの風が吹き始めました。福一事故発生国の立場を活かし、ラストチャンスだと思ってぜひこの機会を活かしたいと思います。