卓話概要

2022年07月12日(第1790回)
㈱高等教育総合研究所 代表取締役社長
亀井 信明氏

少子化により大学の2極化が鮮明に~トップ大学支援の一方で多数の大学が姿を消す

★子供の数が減っている
 私どもの会社が行っているのは、教育のコンサルタントです。具体的には、大学や大学院が多いのですが、学部や学科、研究科などを新設する際の調査とか、申請書類作成のお手伝いなどをしています。そういう仕事をする中で、このところ大学などの高等教育機関にさまざまな変化が起こっていますので、そのへんの事情を少しお話しさせていただきたいと思います。
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 お配りした資料のうち、「大学・短期大学への進学率の推移」というグラフをご覧ください。
 昭和41年には、18歳人口が249万人でした。これが戦後の第一次ベビーブームです。その後の第二次ベビーブームの平成4年には、205万人でした。
 ところがこれを境に18歳人口はどんどん減り続け、2021年に18歳で大学を受験した子供たちの数は114万人でした。そしてコロナの影響もありますが、去年1年間に生まれた子供の数は81万人しかいないのです。ということは、その子たちが18歳になるときは、114万人から、さらに33万人も受験生の数が減るということになります。
 大学進学率は、18歳人口に対して約55%、短期大学はほとんど姿を消して約4%、専門学校が約24%、高専がごくわずかということで、日本の高等教育の進学率は、現状で約84%になっていますから、もうこれ以上伸びるのは無理なのです。大学も定員割れしてきていて、無理に入学させますから、中学レベルの英語も怪しいような学生がいるとか、一部の大学では悲惨な状況が起こっています。

★定員割れの私立大学が大幅に増えている
 資料の「全国の私立大学の入学定員充足率(令和3年度)」を見ると、定員を充足できていない私立大学が、令和2年度と3年度を比べても、大幅に増えていることが分かります。令和3年度では、定員充足率70%台が38大学、60%台が34、50%台が6、50%未満が7となっており、80%未満の大学が85大学もあり、全集計大学597校のうちの14.2%に達しているのです。
 今年、令和4年度のデータはさらに悪くなっていると思います。これから18年間で18歳の受験者数が33万人も減るわけですから、おそらくこの85大学のうちの50~60の大学は、このままの状態でいくと、経営が維持できないことになります。

★10兆円規模の大学ファンドの創設
 一方、子供の数が減って、日本の研究者の研究力が落ちているとか、この先ノーベル賞をとれる人が少なくなるとか、あるいは中国が日本の研究者をかなりのお金を出して引き抜いている、といったニュースも出てきています。
 こういった事態に対応するために、政府はいま「10兆円規模の大学ファンドの創設」ということで動いています。これは政府と民間が拠出をして、10兆円の「大学ファンド」を作るというものです。これを資産運用機関に運用させて、その運用益が大学ファンドに入ってくる。
 具体的には、毎年4.2%の利回りを想定していて、これで4,200億円を稼ぐ。このお金をトップクラスの大学に集中的に配分する。もう一つは、大学院の博士課程に進学する人への奨学金に充てる、としています。
 おそらくこのファンドの恩恵を受けるのは、国立大学の東大、京大、それに準ずる理系を中心とした大学で、10大学以下に限られるでしょう。私立では早慶はじめ3、4大学になるだろうと思います。
 ただし、日本の研究者が育たない原因の一つは、受験生たちは、科学者になるというより、医学部に行きたいという熱が非常に強い、ということがあります。ですから、政府が思っているほどうまくはいかない、というのが現状のようです。

★外国人留学生の支援が重要
 こうした中で、外国人留学生の問題がクローズアップされています。子供の数が減るわけですから、当然、日本社会全体の労働力が減少していきます。技能実習生や特定技能生などの制度で、外国から実習生が来ているわけですが、もちろん外国人留学生も増えており、2019年には31万2000人になっています。
 日本の将来を考えたとき、日本に愛着心を持ち、勤勉で能力の高い留学生を、いかに日本に惹きつけるか、というのが重要な課題であることは間違いありません。
 それに向けてさまざまな支援策が行われているのですが、日本の文部科学省の外郭団体を通しての、たとえば大学の留学生に対する補助金というのは、昔より減っているのです。留学生は増えているわけですから、一人当たりの金額は以前に比べ大きく減っています。
 これを何とかしなければならない、というのが今たいへんな課題です。たとえば、大学が入学金と前期の授業料を免除する、その代わり、それを卒業後に働きながら返却してもらう、といったようなシステムを作れないだろうかと考えています。
 こちらのロータリークラブでも外国人留学生をずいぶん支援されているということを伺って、たいへん心強く思っています。外国人留学生に対して、ぜひこれからも引き続き支援をしていただければと思います。