卓話概要

2020年08月04日(第1732回)
東京シーハント
尾崎 幸司氏

東京湾──生物の不思議・最前線

★ハゼ釣りの歴史が途絶えてしまった

 これは、今はスカイツリーがある隅田川の水路です。20数年前の映像ですが、こんなところにも魚がたくさんいました。この水路は、6月頃になると、全く酸素がなくなって、魚たちが苦しがって水面に上がってきました。
 隅田川にはハゼやカレイ、ときにはアユなどもいました。皆さんは、川が汚れていて知らなかったでしょうが、実はたくさんの魚がいたのです。遊漁船の組合の人たちが、なんとかハゼなどの魚を助けたいと思って、隅田川の河口の16万坪といわれる、今のお台場の前のところに魚を放したわけです。
 ところが石原都知事の頃に、埋め立てが決められてしまいました。私たちは知らないことだったので大反対をしたのです。このエリアは埋め立てをしてしまったので、それから東京湾でハゼを釣る歴史が途絶えてしまいました。
 昔の映像を見ると、ここはたくさんの船頭さんたちが船を櫓で漕いで、ハゼ釣りをしているような場所でした。このボラのように、魚が非常に太っていて、豊かな海だったのです。ハゼの子もここでたくさん見ることができたのです。

★海中の生き物が水をきれいにしている

 この場所に潜ってみると、海底の泥はすごく豊かなのです。ふわふわとして固まっていません。カニ、バケジャコ、そしてダボハゼなど、ハゼの仲間の子がたくさんいました。またゴカイやイソメなどが土を食べて、豊かな海底を作っていたのです。もちろんここで、イシガレイやマコガレイの子たちもたくさん大きくなりました。
 千葉の港の中は、産業廃棄物がたくさん棄ててありました。水もそれほどきれいではなかったのですが、こんなところにも生き物たちはいます。そして東京湾の水を濾過しているのです。これはユウレイボヤというホヤの仲間です。水を吸い込んで濾過して噴き出しています。
 一方で、ヘドロが溜まってメタンガスが噴き出ているような場所も、至る所に見受けられました。もちろん、このようなところには、魚は一匹もいません。
 浦安から船橋にかけてテトラポットのある岸壁では、カキやカラス貝、別名ムール貝と呼ばれるような貝がどこでも見られました。水が少しきれいに見えるのは。岸壁から5~6mまでのところだけです。実はこのカラス貝が水を濾過していたわけです。ですから、岸壁の5~6m先からは水が全く汚いのです。
 これはアカクラゲというクラゲですが、外洋性のクラゲなので、浦安、船橋にも外の潮が入ってきていることが分かります。
 これはアオサで、いろいろな生物のエサになったり、隠れ家になったりしています。
 このようにして、ミドリ貝、つまりカラス貝の仲間たちが岸壁にたくさん付着して、水をきれいにしています。岸壁から真っすぐ進んでいくと、その先は泥場になります。泥場にも、よく見ると小さなカレイがたくさん泳いでいます。しかし、青潮や赤潮が来る頃には無酸素になって、稚魚たちは死んでしまいます。

★東京湾がサンゴの海になってしまう !?

 いま地球温暖化ということが、大きな問題となっています。
 これは今から20数年前の館山の海底の様子です。海草がたいへん生い茂って、魚たちもたくさん見ることができます。イシダイ、メジナ、メバルなど、あらゆる魚がいました。
 しかしこの5、6年、大きな変化がありました。先日、撮影のために潜ったときは、このようになっていたのです。海草が全くありません。この周りにいたアワビやサザエも全滅してしまったのです。
 いま東京湾のどこを潜ってみても、海草がありません。それは地球上に植物が無くなると同じようにたいへんな問題なのです。浅い岩にはサンゴが覆い被さって、勢力を伸ばしています。何年先が何十年先か分かりませんが、東京湾が紀州や沖縄の海のように、サンゴの海になってしまうような感じがします。
 カラス貝などの貝が水を浄化して、東京湾をきれいにする力にはすごいものがあります。ところが、以前は至る所がこの貝で覆われていたのに、最近それが全くありません。
 その原因は、東京湾の水温が3~3.5℃高くなったからです。そのため、生き物たちが全く生活できなくなってしまったのです。海草も全く無くなってしまいました。そのため東京湾の海底がコンクリートのようにカチカチになってしまいました。陸と同じように、海底も柔らかく耕さなくてはいけないのです。
 東京湾を出入りする大きな船は、海中の酸素を増やすために、スクリューを回して曝気するとか、できることをしたらいいのではないかと私は思っています。