卓話概要

2022年07月19日(第1791回)
サンユナイテット㈱代表取締役
西川 昭幸氏

美空ひばりの真実

★歌のうまい、こまっしゃくれた女の子
 美空ひばりは暴力団との繋がりを指摘され、猛烈なバッシングを受けた時期が有りました。ひばりが大衆から完全に許されたのは病に侵された晩年から逝去後でした。ひばりが立派だったのは「不屈」だったことで、非難を浴びようが、大病で倒れようが、不死鳥のように再起し、歌い続けました。そうしたことで没後、ようやく世間から認められたと言ってもいいでしょう。だから「ひばり伝説」のようなものが生まれたのですが、それがなければ、今の美空ひばりへの評価はないと思います。
 美空ひばりは小さいときから歌をうたっていて、とにかく歌が上手だったそうです。昭和12年5月29日、魚屋の娘に生まれました。今年、生誕85周年にあたります。亡くなったのは平成元年6月24日で、今年は33回忌になります。
 幼少の頃は、こまっしゃくれた女の子だったということで、いろいろバッシングを受けました。ひばりが歌手を目指したのは、8歳のときです。昭和21年3月、9歳のときに横浜市磯子区の杉田劇場の舞台で初めて歌をうたっています。
 昭和23年5月には、ディック・ミネや岡晴夫、川田晴久など、錚々たる歌手が出演していた横浜国際劇場に、ひばりも出演しました。
 その後、日劇にも出演。昭和24年にはコロンビアからレコードデビュー。「悲しき口笛」が歌と映画で大ヒットして、それからひばりの歌謡人生が始まっていくのです。

★ヤクザとの蜜月時代
 美空ひばりには、若い頃のヒット曲は多いのですが、昭和42年の「真赤な太陽」以降、昭和62年の「みだれ髪」まで、20年間ヒット曲がありませんでした。それでもひばり人気は衰えませんでした。
 戦後の復興期、新しいものが求められていた時代、美空ひばりのように、こまっしゃくれた女の子が、笠置シヅ子の物真似で歌うというのは、時代に合っていませんでした。
 それに「美空ひばり」という芸名も、場末の歌手のような感じで、当時としては決していい名前ではありませんでした。それでも歌っていくうちに、どんどん人気が出てきたのです。
 歌がヒットしてくると、地方興行が多くなってきます。その地方興行を束ねたのが山口組でした。後に小林旭と結婚するときも、山口組三代目組長の田岡一雄が橋渡しをし、離婚するときも彼が記者会見を行いました。そういうヤクザとの蜜月時代が、興行の面ではありました。
 しかし、そうした問題が影を落とし、昭和48年のNHK第24回紅白歌合戦に出られなくなりました。

★家庭環境の問題
 美空ひばりのキーワードは、「家庭環境」にあると私は思っています。父親は栃木県の貧農の生まれで、小学校も出ていないような人でした。4人兄弟の末っ子で、16歳のとき、口減らしで横浜の魚屋に丁稚奉公に出されました。
 母親は、荒川区南千住の石炭販売業の生まれで7人きょうだいの長女でした。
 この2人が結婚するのですが、父親は外に女性をつくって、2人の子供を産ませるなど浮気が絶えませんでした。
 そのように、ひばりの両親の関係はだんだん冷えていきました。そのため母親は、ひばり一筋に命を懸けて行くようになるのです。

★教育の問題
 もう一つは「教育」の問題です。美空ひばりは、小学校を辛うじて卒業しています。
 昭和25年に精華学園中学部に入学、昭和31年に精華学園高等部卒業となっていますが、ほとんど出席していません。
 そのため、ひばり親子は人を見る目が育たず一般常識などは世間と少し乖離ありました。
 仕事の休みや、休日は、麻雀とお酒で過ごすのが殆どでした。そうした日常でしたが、何故か、ひばりは譜面も覚えないで、曲は耳で覚え歌をうたっていたのです。そうした生活を続ける人生だったのです。
 しかし、そのような生い立ちだったからこそ、あの美空ひばりがあったのではないかとも思います。もう少し世間的な常識や、物の見方、考え方があれば、ヤクザとの関わりや、マスコミや世間からあのように叩かれなかっただろうし、まして全国の市民会館から公演をボイコットされるようなこともなかっただろうと思います。
 山口組と切れたのは、ちょうど時代が山口組を必要としなくなったからです。なぜかというと、新しいフォークやニューミュージックの歌手たちがどんどん出てくるようになって、興行の形態自体も変わってきたからです。
 やはり人間にとって、家庭環境と教育というのは、パーソナリティをつくる上での根幹ではないかと私は思います。
 偉大な歌手の生涯を語るとき、その時代、時代で評価が変わります。しかし、普遍的に変わらないのは歌唱力の評価です。日本では、おそらく美空ひばりの歌唱力こそ、その評価にたえうるのではないでしょうか。だから歌手はひばりを目標にし、世間も認めていると思います。