卓話概要

2020年12月15日(第1746回)
日本の凄さを伝える歴史研究家
中鉢英美氏

近代日本の創立者!! 渋沢栄一を語る~激動の幕末からパリへ、そして日本創立への道

★渋沢栄一(1840-1931)
 私は、本日の卓話タイトルを「近代日本の創立者」としました。渋沢栄一は「日本の資本主義の父」と紹介されることが多いのですが、そうすると経済面だけに限定される感じがするのです。実際は、教育、福祉、赤十字、民生委員等の各種団体、そうした日本の根幹に関わるすべてのことに対応した、ということで「近代日本の創立者」というタイトルにしました。サブタイトルは「激動の幕末からパリへ、そして日本創立への道」とさせていただきました。
 渋沢栄一は、天保11(1840)年、埼玉県深谷市血洗島(ちあらいじま)に生まれ、昭和6(1931)年、92歳で没しました。
 近年、ピーター・ドラッカーなどが渋沢栄一のことを再評価しています。彼は「これだけ企業の社会的責任について訴えた人は、渋沢栄一をおいて他に知らない」と言っているほどです。日本だけでなく、世界的な再評価が望まれる大人物だと私は思っています。

★農民・商人の時代(1840-1863)
 渋沢栄一は豪農の家に生まれました。幼少より読み書き算盤はもとより、漢文を父に、「論語」を従兄弟に学びました。
藍玉取引で「藍玉力競番付」を作って競わせるなど、小さい頃から商才を発揮しました。
17歳頃から尊王攘夷思想に心酔し、高崎城乗っ取りを計画するも未遂に終わり、捕縛を恐れ京都へ逃亡したこともありました。

★将軍家に仕える幕臣時代(1864-1868)
その後、一橋家に仕えることになり、将軍になる前の徳川慶喜に箴言し、コメの転売や手形発行などを行い、藩の財政改革を進めました。
 1967年には、慶喜の弟・昭武に随行してパリ万博を見学、各国を視察します。途中、建設中のスエズ運河を見て、国が運河を造っているのではなく、民間の株式会社が造っているということを知って、たいへん驚きます。
 ところが日本は、大政奉還して幕府が瓦解したため、栄一は帰国します。そして慶喜が蟄居していた静岡へ赴き、そこで旧幕臣の茶作りを支援したりします。

★新政府の役人時代(1869-1873)
 時代は明治に替わり、新政府が誕生します。政府の高官である大隈重信らに請われ、大蔵省に入ります。大蔵省では、度量衡、租税、銀行、郵便制度等、国の基礎を作る仕事に携わります。
しかしながら大久保利通、大隈重信ら主に軍備を進める政策と予算面で衝突。井上馨と共に退官し、いよいよ実業界に入ることになります。

★実業界、社会福祉、教育、国際交流の時代(1874-1931)
 この時代になって、渋沢栄一は第一国立銀行をはじめ500余の企業の設立に関わりました。さらに、貧しい人たちのための東京養育院を設立し、彼は92歳で亡くなるまで、ここの院長をやっていました。そのほか一橋大学、日本女子大学など600余の関係団体を育てました。先日、二松学舎の方がこちらで卓話をされたようですが、渋沢栄一は二松学舎の第3代の理事長でもありました。
 当時、三菱財閥を作った岩崎弥太郎という傑出した人物がいました。岩崎は一匹狼でのし上がってきた実業家で、「独占主義」的な考え方をもっていました。
 一方の渋沢は「合本主義」の思想で、みんなで少しずつお金を出し合って、利益よりも公益を尊重するという立場でした。
 岩崎は渋沢に、一緒に手を組んで事業をしないかと提案しました。しかし基本的な考え方の違いから、結局この話は決裂し、両者はその後、海運業で激突することになります。結果的には和解したのですが、直後に岩崎は亡くなります。そして2つの船会社が合併したのが、日本郵船という会社です。
 また、当時のポール・クローデル駐日フランス大使と共に日仏会館を建設するなど、国際交流にも貢献しました。詩人で哲学者でもあったクローデルはあるとき言っています。「世界にはいろんな民族があるが、この民族だけは滅んでもらいたくない。それは日本民族である」。
 渋沢栄一は、ノーベル平和賞の候補に2度も挙がっています。
 76歳を過ぎて『論語と算盤』を著し、「道徳経済合一説」という理念を打ち出しました。倫理と利益の両立を掲げたこの本は、今でも多くの読者を惹きつけています。
 最晩年の91歳のとき、日本は昭和の大不況の時代で、生活困窮者が巷に溢れていました。国は救護法という法律を作りましたが、絵に描いた餅で、実行されていませんでした。
 周囲から推されて、病気がちの渋沢は、医者から止められながらも、「自分の命はどうなってもいい」と言って、大蔵省に掛け合いに行きました。その結果、とうとう大蔵省は予算をつけて、救護法は実行されることになりました。そして法律施行の2か月前に渋沢栄一は亡くなりました。
 最後の最後まで、貧しい人、弱い人に寄り添った人生でした。
 来年のNHK大河ドラマは、渋沢栄一を主人公にした「青天を衝け」です。こちらもぜひご覧ください。