卓話概要

2022年10月18日(第1799回)
茂田インテリジェンス研究室主宰
茂田忠良氏

ウクライナ戦争とインテリジェンス

★戦況とウクライナ善戦の要因
 ロシアとウクライナの軍事力を比較すると、総兵力、戦闘機、戦車、軍事費などの面で、数倍から10倍以上、圧倒的にロシアのほうが多いのです。まともに考えれば、ウクライナは勝てるわけがありません。
 ところがこれまでの戦況を見ると、ウクライナ軍の善戦が目立つわけですが、その要因としては、以下のようなことが考えられます。
〈ロシア側〉
① インテリジェンスの失敗(特にFSB第5総局)
② 軍の低い士気
③ 軍の貧弱な兵站
④ 軍の硬直した指揮命令・組織体質
〈ウクライナ側〉
① 国土防衛のための軍・国民の高い士気、大統領の勇気
② NATO軍に倣った軍改革
③ 米欧からの潤沢な武器の供与支援
④ インテリジェンス力の高さ
・ 米国によるインテリジェンス支援
・ ウクライナSSU(Security Service of Ukraine)

★米国のインテリジェンス力の現れ
1)全面侵攻の予測と対応準備
2021年秋には、全面侵攻を予測。
10月27日、ホワイトハウスで対策を協議。
11月2日、CIA長官がモスクワを訪問、プーチンと電話会談。
欧州諸国への警告(11月中旬のNATO評議会)。
12月初旬、米国防総省の作業チームがウクライナを訪問。
2)米国による情報作戦
12月3日、米、機密指定を解除して、露軍の動向を公表(WP報道)。
2月上旬、露の「偽旗作戦」を阻止。
3)侵攻直前の米国政府の行動
2022年1月9日、米・露の外交軍事担当官がジュネーブで会談。
1月21日、米国務長官、露外相とジュネーブで会談。
2月14日、米国はキーウの米大使館の閉鎖を発表。
4)米国の情報支援の開始と恒常化
1月12日、CIA長官がゼレンスキー大統領と面会。ロシア軍の作戦計画について図解付きで詳細な情報を提供。
ウクライナ軍統合軍司令部が、侵攻前に露軍の全面侵攻に対する作戦計画も立案。

★米国の収集プラットフォーム
1)シギント・プラットフォーム:NSA(National Security Agency)とUKUSAシギント同盟〈米・英・加・豪州・NZ〉
*「シギント」は通信傍受等による諜報活動。
①「プリズム」計画/②通信基幹回線/③外国通信衛星の傍受/④特別収集サービス/⑤CNE(コンピュータ・ネットワーク工作)/⑥シギント衛星・機上収集/⑦水上艦艇・潜水艦収集/⑧従来型収集
2)イミント・プラットフォーム
NGA(National Geospatial-Intelligence Agency)
*「イミント」は画像による諜報活動。
①国家衛星システム/②米国商用衛星/③有人偵察機/④無人偵察機
3)マシント・プラットフォーム
*「マシント」は計測・特徴諜報。
国防諜報庁DIA(Defense Intelligence Agency)
①早期警戒衛星/②海上ミサイル追跡艦/③各種の地上レーダ/④海中固定ソナー/⑤音響観測艦/⑥対潜水艦哨戒機/⑦E-3 Sentry早期警戒機AWACS

★米国のインテリジェンス支援
1)情報提供方針・提供情報内容
* 情報提供方針(提供内容)/情報はリアル・タイムで提供。
対象情報/露軍部隊の位置情報と活動、作戦計画に関する情報。
* 4月7日、情報提供範囲の拡大/占領されたウクライナ領土の回復に資する情報。
* 情報提供の制限/インテリジェンス手法と情報源(×)、米国自身が戦争当事国(参戦国)と見做される情報提供(×)、米軍が作戦を指揮したり、共同で軍事作戦を実施していると見做されるおそれ(×)、標的情報(建前は×)、作戦に使用可能な戦場情報(○)。
* 提供禁止情報/露領内攻撃のための情報、露将軍を殺害するための位置情報、露指導部(総参謀長、国防相等)を殺害するための情報。
2)支援の成果の事例
侵攻開始時/ホストーメリ空港の激戦。
侵攻開始時/兵力温存とロシアの航空優勢の阻止。
4月14日/ミサイル巡洋艦モスクワの撃沈。
5月上旬まで/ロシア軍将官12人の殺害。
5月上旬/ロシア軍渡河作戦の阻止。
5月~7月上旬/セヴェロドネツク・リシチャンシク攻防戦。
6月下旬以降/HIMARS(高機動ロケット砲システム)の効果的運用。
9月/ハルキウ州の奪還作戦。
3)サイバー防衛支援
① 米サイバー軍司令官(兼NSA長官)ナカソネ大将/「米国は防禦作戦、攻撃作戦、情報作戦の全ての領域で作戦を実施してきた」。
元DNIデニス・ブレア氏/「露サイバー攻撃は軍事攻撃以上に失敗」。
② 米国等支援国によるロシアの攻撃の無力化/前進防禦(Defending Forward)。
③ マイクロソフト社、スターリンク衛星通信、データ解析パランティア社らの協力