卓話概要

2022年11月08日(第1802回)
東京大学未来ビジョン研究センター データヘルス研究ユニット特任教授
古井祐司氏

データヘルスで皆さんの人生が大変身!~健康寿命延伸の研究成果から

★自分のことを知り、観察する
 いま私は「データを使って健康になる」という研究をしています。
 いつまでも健康で生き生きと活動するためにはどうしたらよいか、そのためには2つのことが大事だと思います。
① 自分のことを知る
・専門家(かかりつけ医等)とのコミュニケーションが有用です。
・健診データ等はそのための素材にもなります。
② 自分を観察する
・日常生活が健康に反映されます。
・〝平熱〟を知っておくと、必要なアクションにつながります。
 私はスマホにアプリを入れて、10分おきに自分の心拍数をモニタリングしています。日中の観察は、深呼吸やお茶をする間をとったり、宴席でチェイサーを入れるきかっけになります。

★健康の基盤は食事です
 健康のためには、やはり食事がとても大切だということが分かってきました。
 食事で、栄養素(炭水化物・脂質・タンパク質・ミネラル・ビタミン)を摂取します。食事することで胃腸が動くので、リラックスし、幸せな気持ちにもなります。それだけでなく、体のためのエネルギー(体温の維持・呼吸・血液循環・筋肉を動かす)になります。さらに新陳代謝(全身の細胞をリニューアルする)を促します。これらのために食事は大事なのです。
 主な栄養の要素として、タンパク質・炭水化物・脂質の3つが挙げられます。
① タンパク質/体をつくる
・欠食・偏食は基礎代謝(筋肉)を減らします。
② 炭水化物/エネルギー
・基礎代謝が少ないと中性脂肪が増えます。
③ 脂質/機能維持
・青魚などは動脈硬化の防止につながり、スナック菓子は動脈硬化、認知機能にマイナスです。
 50歳以上の人は、特にタンパク質を重点的に摂る、というのが今の潮流です。

★良質な睡眠には〝コツ〟があります
 食べ物のほかに、睡眠もとても大事です。
 60代になると、睡眠時間は4~5時間になります。ただ昼寝をしたり、ウトウトすることも大切だと思います。
 良質な睡眠を得るには、寝る前に「深部体温」を下げることがコツです。寝る1時間半ぐらい前にお風呂に入ります。温度は38~39℃ぐらいで、じんわり体を温めます。お風呂から出ると手足から放熱して、「深部体温」が下がっていきます。そうすると、副交感神経が働いてきますので、スッと眠れます。

★健康とwell-beingとの関係
 健康づくりはwell-being(幸福)につながる、ということが研究から分かっています。
 ご自身の健康に関心を持つことで、仕事のモチベーションや労働生産性がアップします。また生活でのコミュニケーションが広がり、生き生きと暮らせるようになります。
 実際にデータからも、「健康に関心を持って活動している人ほど、幸せ感を持っている」ということが分かっています。
 サラリーマンで健康リスクの高い人と低い人とでは、1人あたりの労働生産性損失コストに、2.9倍の差があることが分かりました。それは年間で100万円の差額となり、100人の職場では億単位の損失となります。このように、社員の健康は労働生産性に大きく影響します。
 静岡県の小学校で、データを使って地域別の病気の特徴と食文化との関係を可視化し、出前授業を行いました。それを多くの子どもが親に報告した結果、家族の行動に変容が見られ、たとえば翌年度のお母さんたちの乳がん検診受診率が上がった、という事例があります。データヘルスが地域の健康増進につながり、併せて地産地消にもつながります。
 世界的に見ても、日本は医療機関や医療資源に非常にお金をかけています。ところが、いわゆる「世界幸福度ランキング」では、日本は62位とかなり低く、特に「自由度」「寛容さ」の点で低くなっています。自由に生活できていない、主体的に動けていないという状況があるのではないかと思います。
 一方で、ボランティア活動などを行っている人のほうが、そうでない人より圧倒的に幸せだ、ということが分かっています。
 このことから、健康づくりを通じて、主体的に活動し、社会でのコミュニケーションを活発にすることが、自身にも、地域社会にもプラスになると思います。

★データを活用した健康寿命の延伸に向けて
① データで自身を知ると、健康に資するアクションに役立ちます。
 データを取ることで、その人の特徴や健康に資する情報が分かってきます。必要なノウハウは専門家等から取得できます。
② 主体的にコミュニケーションすることが、あなたのwell-beingにつながります。
 自分から何か発信していこう、何かに参加していこうと、主体性をもって生活していくことが、健康にも幸せにもプラスになります。