卓話概要

2023年04月18日(第1818回)
笹川平和財団 安全保障研究グループ 上席研究員
渡部 恒雄氏

大国間競争時代の 米国の戦略と日本

★再び大国間競争の時代に
 第二次大戦後つい最近まで、世界秩序は比較的安定してきました。特に冷戦が終わった後、テロ、内戦、局地的戦争はありましたが、大国同士がぶつかり合うような大きな戦争はありませんでした。
 ところが最近、米中間の対立が激しくなってきて、それが心配だと思っていたら、ロシアがウクライナを侵攻しました。これによって日本を含めて世界は、大国間同士の戦争も起こり得るのだと実感しました。
  今の世界の関心は、ウクライナとロシアとの戦争をどう終わらせるかということです。もう一つは、中国が台湾に侵攻して一方的に統一するのではないかという懸念です。アメリカが台湾を守るということになると、米中の戦争になり、日本も巻き込まれざるを得ないでしょう。
 このように世界は、再び大国間競争の時代に戻ってきている──残念ながらこれが世界の現状です。そこで知っておかなくてはいけないのは、アメリカの力が分断により相対的に弱っているということが、現状を引き起こしていることです。
 アメリカは今、共和党はトランプ支持の内向きの保守派(トランプ支持)と伝統的保守派(脱トランプ)、民主党は中道派(バイデン)と急進左派(サンダース)の4つに割れています。
 こうしたアメリカ政府の分断、中国の台頭、グローバルサウスの影響力の増大は、アメリカの世界における求心力を大きく低下させ、今後もこの状況は継続するだろうと思います。
 日本は今まではアメリカが提供する秩序の中で安心して暮らしてきたけれども、それが崩れそうになってきた。アメリカと中国の対立の中で、日本はいちばん苦しいポジションに置かれるかもしれません。

★エンゲージメントから米中競争時代へ
  1972年のニクソン訪中により、アメリカは、それまでの「封じ込め政策」を止め、中国に対して「エンゲージメント(関与)政策」を始めました。
 アメリカと経済関係を持つことによって中国が経済成長をし、中間層が育つことによって民主化を求めるようになる、そして国際ルールを守る側に立つだろうというのが、エンゲージメント政策の考え方です。その延長で、オバマ政権の時代には米中で世界の問題を解決しようという、いわゆる「米中G2論」まで期待されていました。
 「米中G2論」は日本にとっては懸念すべき政策でした。中国の米中G2への期待は、太平洋を2つに割って両国がそれぞれの側をコントロールするものでした。アジア側の台湾、フィリピン、日本は、米国は手を出さずに中国にまかせろ、ということです。
 幸いにも米国は米中G2論を拒否しました。中国がもうしばらく爪を隠していればよかったのですが、爪を出してしまったからです。そして今の米中競争時代に入ったわけです。日本としては最悪の状況を避けることができました。
 しかし逆に、もし米中が戦争になったら、日本は巻き込まれます。何でもそうですが、ちょうどいい真ん中を維持するというのが要諦ですが、そう簡単にはいかない、というのが我々の歴史です。

★中国もアメリカも戦争する気はない
 アメリカは、中国に対して封じ込めをするのか、つまり「デカップリング」といって中国経済を切ることができるのか、というと絶対にできません。なぜなら、中国はすでに世界中と経済でつながっているからです。
 そこでアメリカは、軍事・民生の両用技術の中でも最先端のAIや量子コンピュータなどの技術と、それを可能にするハイスペックな半導体、これらの製品と技術が中国に行かないよう規制をはじめました。
 中国はアメリカと戦争をしたくはありません。中国にとってベストの結果は、アメリカの介入を招かずに台湾を併合することです。もしも中国が一時的にでもアメリカを無力化するような技術、あるいは凌駕する技術を持てば、軍事力行使のハードルは下がります。
 アメリカも中国と戦争する気はありません。ただ怖いのは、せめぎあいの中で偶発的に衝突が起こり戦争にエスカレートしてしまうことです。

★日本の戦略は「プランA+」
 そこで日本がとるべき戦略は何か。笹川平和財団のプロジェクトで、日本のとるべき戦略を検討しています。
 日本には、既存の日米同盟維持の「プランA」と、それ以外の「プランB」の選択肢があります。
 日本が今やろうとしていることは、「プランA+」、すなわちアメリカが弱っているからこそ、アメリカとの協力をさらに強化するだけでなく、日本自身の能力を上げて、アメリカ主導の国際秩序を維持することです。昨年、日本政府が定めた「安保三文書」はこのラインです。
 それがうまく行かなかったら、そのときはプランBを考えるしかないでしょう。プランBとは、中国の軍門に下ることです。
  Bは嫌だ。ではAか。でもAのままでは米国は弱体化してBになる可能性が高まります。だから「A+」により、米国の同盟国とともに自分たちで国際秩序を維持するしかない。
 これが今の日本の取っている戦略であって、私はそんなにずれてはいないと思います。米中対立の間に一国で立つことは苦しいので、同じような状況にある韓国、豪州、東南アジア諸国のミドルパワーと協力して、米国主導の秩序を維持し、サプライチェーンをこれらのパートナーと築いて、米中衝突による最悪の状況に備える、これが日本の戦略かと思います。