卓話概要

2023年02月07日(第1811回)
東京農業大学名誉教授
前田良之氏

身近な有機栽培 ~Q&Aでやさしく学ぶ

★「有機」と「無機」
「有機(物)」とは、燃えてなくなってしまうもののことです。燃えて残った灰が「無機(物)」です。植物は、主に灰を水に溶かしたような形で栄養成分を吸収します。
「有機栽培」というのは、肥料として油粕、魚粕、堆肥などを土に入れて栽培することです。土の中の微生物がそれらを分解、燃焼して灰にするわけです。この灰が無機イオンの形で植物に栄養成分として吸収されるのです。

★「有機栽培」と「有機栽培野菜」
 有機栽培には次のような条件があります。
①3年間農薬や化学肥料を使わない土壌で栽培
②周辺から使用禁止資材が流入しない
③遺伝子組換えや放射線照射をしない など
 栽培野菜には以下の種類があります。
①有機JAS認証農産物
 本当の(!)「有機栽培野菜」、野菜生産量のわずか0.4%程度
②特別栽培農産物
 農薬と化学肥料の使用を慣行の5割以下に減らしたもの
③慣行栽培農産物
  決められた化学肥料や農薬を使っているもの

★有機栽培野菜の特徴
 有機栽培野菜は化学肥料と農薬を使わない栽培方法で作った野菜なので、「安全」「安心」だといわれています。
  「品質」面では、甘く、硝酸(苦みの成分)が少ないから美味しい、味が濃厚、ビタミンCが多い、食べたときにシャキシャキ感がある、日持ちがするなどの特徴があります。
  有機栽培野菜は、普通に作った野菜より値段が高いです。それには以下の理由があります。
①有機質資材の安定的購入
 肥料として必要な有機質資材を安定的に入手するのは意外に大変
②手間(害虫と雑草)
 農薬を使わないと、害虫や雑草の駆除に人の手間が多くかかる
③作物の安定収穫
 安定的な量・質的収穫が難しい
④販売ルート
 直売所などのしっかりした販売ルートを確立する必要がある

★化学肥料は良くない?
 化学肥料や農薬が悪いような印象がありますが、それは全く間違いです。なぜなら化学肥料や農薬は、私たちの食べ物に関わることですから、それらは「肥料取締法」や「農薬取締法」という法律でしっかり規制されているのです。つまり「安全」だということです。逆に、有機栽培と称している野菜の中に、安全ではないものを使っている可能性もあるのです。
 化学肥料というのは、「化学合成肥料」つまり化学的に「合成」された肥料のことです。人間が新たに作り出した肥料です。
 肥料をその原料によって分類すると、次のようになります。
【有機質肥料】
◎動物質肥料
 魚粕、肉粕粉末、骨粉、血粉など
◎植物質肥料
 ナタネ油粕、ダイズ油粕、製造粕など
【無機質肥料】
◎天然
 チリ硝石、炭カル、苦土炭カル、炭酸マンガン
◎合成
 化学肥料

★肥料は少なく、水は多く
 よく野菜などの葉っぱが青ければよく育っている、と思われる人が多いのですが、青いかどうかは肥料として窒素(硝酸)をたくさん入れるかどうかで決まることが多いのです。
 家庭菜園で一生懸命有機栽培をやっている人の中には野菜中の硝酸量が多いことがあります。
 経験上、栽培の基本には2つありそうです。
①肥料施用は多いよりは少なく
②給水量は少ないよりは多く、但し溜めない
 鉢に植えた植物に元気がないときは、風呂場などに持って行って、上から水をザーッとかけて流しっぱなしにします。その際、鉢に水を溜めないことです。これで余分な肥料や根から出た老廃物は鉢から流れ出てくれます。この方法で多くの植物は回復します。

★大事なこと3つ
 有機栽培野菜は美味しい、甘いといわれます。それには科学的理由があります。しかし、だから有機栽培が良いのだというわけではありません。有機栽培をすると健全に生育する条件が整う、ということなのです。
 たとえば、土の中に隙間ができて空気がたくさん入るように、有機物の代わりに、極端な話、ビー玉を入れても育ちます。大切なのは、有機栽培というより、健全に育てる、ということではないでしょうか。
 大事なことは、次の3つです。
①水はけ
②適切施肥
③日当たり