卓話概要

2023年01月31日(第1810回)
VOLVE株式会社 代表取締役 CEO
吉井弘和氏

霞ヶ関に求められる変化と VOLVE株式会社の挑戦

★リボルビング・ドア
 私は2004年に、新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社する頃から、いずれは公共の仕事をしたいと思っていました。当時から、アメリカには「リボルビング・ドア」というキャリア・モデルがあるということを聞いていたからです。リボルビング・ドアというのは、政府・民間・アカデミアなどを行ったり来たりしながらキャリアを形成していく、というキャリア・モデルです。
 マッキンゼーに勤務しながら留学もしたのですが、いつか政府の仕事に就きたいという思いもあったので、留学先はビジネス・スクールではなく、国家公務員の方が行くようなポリシー・スクールに行きました。
 その後、政治と行政の関係にも興味があったので、イギリスの政党や選挙対策本部などでインターンをしました。
 帰国後は、マッキンゼーに復帰し、ヘルスケア関連の公共プロジェクトの開拓などに尽力しました。その後、厚生労働省の外郭団体である社会保険診療報酬支払基金に勤務、その後、厚労省に転職しました。そして昨年の夏に退職し、VOLVE株式会社を立ち上げました。

★越境人材のキャリア・プラットフォームを構築
 VOLVEという会社は、「越境人材のキャリア・プラットフォームを構築する」をビジョンとしています。越境人材というのは、業種もしくは職種を替えて転職しキャリアを積まれる方々のことです。自らが越境して(revolve)、周りを巻き込み(involve)、社会を進化させる(evolve)、そういった方々をご支援したいと思って会社を始めました。当社は現状では、越境人材の中でも特に霞ヶ関に的を絞って、人材紹介業をさせていただいています。
 具体的に言うと、越境転職には両面があって、一つは民間から国家公務員に転職するパターン、もう一つは国家公務員を辞めて民間企業に転職するパターンです。
 「民から官」への越境転職では、いくつかハードルがあります。それは転職を希望する本人だけでなく、雇う側の霞ヶ関にとってもうまく採用できていないボトルネックでもあります。
 たとえば採用情報へのアクセスが非常に困難なこと、役職や職務の「霞ヶ関用語」が分からない、年収が分からない、といった点などに迷いと不安があります。
 こうした迷いと不安に対して、民間の立場で現状を改善するべく、情報の見える化の取り組みとして、中央省庁の中途採用情報の検索機能付きまとめサイトと年収シミュレーターを提供しています。
 一方、キャリア官僚の霞ヶ関離れが、近年加速していると言われています。国家公務員の自己成長、やりがい、処遇、キャリアへの疑問などがその背景にあるように思います。「成長できているか?」「民間で成功できるか?」「このままでいいのか?」といった、キャリアに迷う国家公務員の方々の姿があります。
このような国家公務員の方々に対して、転職ありきではないキャリア相談のサービスを提供しています。相談の結果、公務を続ける覚悟を決める方もいらっしゃいます。
 「官から民」への転職を決意した国家公務員の方々には、VOLVEの強みを活かして、少しでもいい転職をしていただきたいと思っています。国家公務員に対象を絞って人材紹介業を行っているのは、私どもしかありません。その意味で、国家公務員向けの求人案件は、私どもが最も深く理解していますし、求人企業の皆様に向けて、国家公務員のスキルをもっともうまく説明できるのは自分たちだと自負しています。

★霞ヶ関で必要とされる調整力の例
 「民から官」と「官から民」のどちらに興味がある方からも、「霞ヶ関で身につくスキルとは何か」というご質問をよくいただきます。
 霞ヶ関では、「調整力がある人」が「すごい人」と言われがちですので、一例として調整力をご説明します。そもそも「調整」とは何でしょうか。ここでは、「さまざまなステークホルダーの利害関係や価値観の違いがある論点について、現状とは異なる最適解を構想し、その最適解の実現に向けて、意思決定に必要な人々の合意形成をすること」とします。以下の通り、霞ヶ関で培われる「調整力」にはビジネスで活用できる様々なポータブルスキルがあります。

【ナレッジ】
*ドメイン知識/調整事項の基本的な知識
*ステークホルダー知識/調整相手の存立基盤や基本的な考え方等の知識
*プロトコル知識/調整の作法の知識
【スキル】
*リスニングスキル/調整事項に関する相手のレッドラインを引き出す
*ロジカルシンキングスキル/全ての調整相手が合意できる選択肢を体系的に検討する
*交渉スキル/交渉の基本的な設計をする
*シナリオ設定スキル/諸々の条件を勘案して先を読み計画を立てる
*プロセスマネジメントスキル/調整のプロセスを緻密に管理する
*コミュニケーションスキル/合意可能な選択肢を適切に文書・口頭で伝える
*インフルエンシングスキル/調整相手に歩み寄ってもらう
*アサーションスキル/説得的に言い切る
【マインドセット】
*不確実性への耐性
*できる志向
*胆力