卓話概要

2024年02月20日(第1846回)
東京財団研究所 主席研究員
柯 隆氏

2024年 中国経済の展望~岐路に立つ中国

★今の中国経済は需要不足
 今の中国は、まさに日本がバブル崩壊した直後のような状況です。
 10年前の中国経済は、供給過剰でした。「一帯一路」政策は、中国の余った生産能力を輸出するための枠組みだったのです。10年経って、今の中国経済は、需要不足です。
 そのきっかけは、3年間のコロナ渦のゼロコロナ政策でした。それによって、約400万社の中小零細企業が潰れたのです。日本は、持続化給付金と中小企業信用保証制度の仕組みで、コロナ禍の倒産が少なかったようです。しかし中国は、中小企業信用保証制度のようなものが整備されておらず、持続化給付金は1人民元も支給されていません。中国は社会主義国ではなく、むしろ日本のほうが社会主義国ではないかという気がします。
 需要不足ですから、不動産を作っても売れないので、多くのゼネコン、デベロッパーは債務返済ができなくなり、いま大変な状況になっています。

★中国の本当の経済成長率は?
 今年1月、中国の李強首相がダボス会議に参加したとき、2023年の中国の経済成長率は5.2%だと述べました。翌日、上海の株価は大きく下落しました。なぜなら、中国の投資家はその数字を信じていないからです。
 世界銀行は、中国の経済成長率を、実際は2ポイント減の3.2%ぐらいだろうと見ています。ワシントンの「ラジウムグループ」というシンクタンクは、高くても1.5%と試算していて、私もそのぐらいだろうと思っています。
 というのは、若者がたくさん失業しているからです。先週、中国は春節(旧正月)だったのですが、8連休だったにもかかわらず、中国人は今までのように大挙して来日していません。失業率が非常に高いという状況が、習近平政権の難題の一つになっています。

★中国経済は「岐路に立っている」
 冒頭述べたように、今の中国経済は、30年前の日本とよく似ています。日本では「失われた30年」と言われていますが、その中で一つ失っていないものがあります。それは「技術」です。技術があれば、リカバリー(回復)はしやすくなります。この2、3年どんどん回復に向かっているのはそのためです。
 今回、中国はデフレに突入したわけですが、その「技術」を失っているのです。中国の地場企業は、ハイテクの技術を持っていません。たとえば、低レベルの工作機械は、85%の企業が作ることができます。しかしハイテク機械の国産化率は、わずか6%に過ぎません。中国のほとんどの企業は、その技術を持っていないからです。
 技術を失うと、経済のリカバリーに非常に時間がかかります。その意味で、中国経済は「岐路に立っている」状況だと思います。

★習近平政権は「内憂外患」
 しかも来年、かなりの確率でトランプが当選する可能性が高くなっています。したがって、いま習近平政権が直面しているのは、まさに「内憂外患」で、かなり厳しい状況だと思っています。
 こうした中で、サプライチェーンが分散されるわけですから、外国の企業とりわけ日本の企業も、中国に留まるべきか、それとも離れるべきか、いま非常に悩んでいます。
 「イン・チャイナ、フォー・チャイナ」、中国で物を作って、売るという、「地産地消」の投資は中国に残ると思います。「再輸出」するためのビジネスはたぶん、インド、ベトナム、メキシコに移転していくと思われますが、この実情を習近平主席は分かっていないのではないか、というふうに感じています。

★日本は教育改革を
 一方、日本もいま危機に直面していると私は思っています。それは教育危機です。私は30年以上日本の選挙を見てきましたが、なぜか教育制度の在り方が、一度も選挙の争点にならないのです。私には、日本の教育システム全体が、かなり荒廃しているように見えます。
 本来、日本の教育レベルは高いはずです。「教育は百年の計」と言われますが、私は、教育システムを見直して、人をもっと「人材」にすることを考えるべきだと思っています。人の能力をもっともっと高めていかなければいけないと思うのです。
 中国本土はこれから沈んでいきますが、エリート層はどんどん外へ出て行っています。しかもデジタル化の時代ですから、海外ではヴァーチャルで「グレーター・チャイナ・ネットワーク」ができているのです。知識人たちがネットワークで結ばれているわけです。このヴァーチャル・リアリティの中国は、首都をシンガポールに置いています。皆さんも、こうしたネットワークの重要性を、もっと認識されたほうがいいと思います。
 このネットワークは早晩、ユダヤ系やイスラム系のネットワークとリンクされていくわけですから、中国以外のネットワークにも気を配っていく必要があると思います。
 そのためにも、教育改革を急ピッチで進めていなかければいけないと私は思うのです。