卓話概要

2020年07月21日(第1731回)
西尾 孝幸会員

30分でわかる民法改正(会員卓話)

★民法改正の全体像

☆改正スケジュール
 2017年5月26日、「民法の一部を改正する法律」が成立し、2020年4月1日より改正法が施行された。
☆明治29年(1896年)の民法が改正された背景
①120年間における社会・経済への変化に対応するためルールを変更した。
②現在の裁判や取引の実務で通用している基本的なルールを法律の条文上も明確にし、読み取りやすくした。
☆民法改正の主な内容
*民法総則
 消滅時効/知った時から5年、権利行使できる時から10年
*債権総論
 法定利率/年3%→3年毎に変動する可能性あり
 保証/保証人の保護を拡充(情報提供義務、公正証書等)
*契約総論
 契約解除/債務者の帰責事由なく解除が可能になった。
 解除できない場合や無催告解除事由を整備
*契約各論
 瑕疵担保責任/「契約不適合責任」へと名称・性質が変更
 賃貸借/存続期間、妨害排除請求権、敷金や原状回復に関する取扱いの明文化

 ★改正民法の実務への影響

*実務への影響が大きい改正点
①職業別時効期間の廃止(時効期間の統一化)
②利率の変更(保険契約の保険料の値上げ)
③保証契約の取り方と保証人への請求(不動産賃貸と融資)
④約款の見直しと体制整備(ネット販売、保険、ライセンス規約)
⑤その他の改正(売買、ソフト開発の保証期間変更、請負工事代金譲渡など)

★消滅時効と利率の変更

*消滅時効の改正
(1)従来の消滅時効は、複雑な短期消滅時効制度などで不明確だった。
(2)改正後の消滅時効(商事も同じに)
 ※起算点がずれたらいずれか早い方に
①[起算点]/知った時から
 [時効期間]/5年
 [具体例]/売買代金債権、飲食料債権
 など契約上の一般債権
②[起算点]/権利を行使することができる時から
 [時効期間]/10年
 [具体例]/不当利得返還請求権など
③なお、未払い賃金の消滅時効は、2020年4月から「3年」に改正
*法定利率の変更
(1)利率の低減
[改正前]
 民事利率5% 商事利率6% 固定金利
[改正後]
 民事・商事一律3% 3年毎の変動利率
(2)実務への影響
①交通事故補償金で中間利息控除の減額→支払い額の増加
②保険料の値上げの動向

★約款と保証の変更

*約款(定型約款)についての改正
1)定型約款の規定
 特定の者が、不特定多数の者を相手として行う取引(定型約款)について、「約款=契約」と明示すれば、消費者に一方的に不利な場合以外、消費者が理解していなくても定型約款は有効となる、と定められた。
2)定型約款変更の要件
 定款を変更することも、相手方の一般の利益に適合するで、いつから変更後の約款が効力発生するか、その時期を定め、公表する必要があるなどの要件が定められた。
*保証人に関する改正
(1)個人の根保証契約についての極度額設定が義務化され、極度額の記載ないものは無効となった。
(2)事業用の融資の個人の保証契約については、公正証書の作成義務が課された。
(3)保証人への情報提供義務が定められた。

★その他の重要な改正点など

*瑕疵担保と契約解除
①民法改正により、従来の「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ変更された。
②契約解除の要件の整理がなされた。
*改正による請負への影響
(1)請負人からの一部完成の報酬請求と発注者からの減額請求が定められた。
(2)請負の担保責任が変更され、担保責任請求の期間制限が緩和された。
*債権譲渡禁止の無効化が実務上影響する(但し、預貯金では禁止は有効)
*改正民法の施行日である202041日以降に成立した契約に適用される。