卓話概要

2024年03月26日(第1850回)
帝京大学短期大学現代ビジネス学科教授・山本博幸事務所代表
山本博幸氏

どうしてフランスは人口減を乗り越えたのか

★日仏の男女の価値観の差
 本日は「どうしてフランスは人口減を乗り越えたのか」という演題でお話をするようにご依頼を受けました。人口増には移民政策なども含まれると思いますが、今日は、特に「フランスの出生率はなぜ回復したのか」についてお話をしたいと思います。
 フランスがこの政策を進める中で、男女の価値観も日仏では格段の差があります。日本ではスキャンダルとして報じられ大騒ぎになるような男女の関係も、フランスではごく普通の関係としてとらえられ、行動の自由も大きく広がっていました。
 翻って、わが日本では、明治以降の行動様式に縛られた堅苦しい男女関係のなか、逆に想像を超えるセクハラ事件などに焦点があたり、息苦し世界を作っています。
 その対極にあるフランスのセレブたちの行動を含めて日本では想像できない男女関係の現状をお話しさせていただき、皆様を驚かせました。これは別の世界のこととしてお含み下されば幸いです。ややうらやましいことですが。

★フランス政府がとった2種類のアプローチ
 フランスも1990年には人口減少で危機意識が生まれ、対策をとり、一応の成功を見ています。すばり、「フランスの出生率はなぜ回復したのか?」
 フランスの出生率は、1993年、1.66と女性が生涯に産む子供が2.0を割り、早急な対策が求められていました。現在は2.03を超えて一応の安心水準に回復しています。フランス政府は、出生率向上のための積極的な改革を行いました。彼らは2種類のアプローチを開始しました。
 第1弾として、経済負担の軽減・無償化(子供の人数が増えるほど経済負担が軽くなる)。
 第2弾として、結婚に関する社会制度の改革です。女性の経済的自立から非婚率・離婚率が上昇。その一方で、初めから結婚しないで「同棲」(事実婚)を選ぶ人たちも多くなりました。その結果、事実婚による結果的な増税という非合理に対応するために、PACS(パックス)という制度が導入されました。このような従来の結婚とは別形態の事実婚に対する社会的容認や歓迎は、男女の結婚観や生活に自由度を与え、出生率を増加させています。

★第1段階としての具体策
改革①
・子供がいても追加経済負担がない
・家族手当は所得制限なし
・第3子から家族補助手当
・子供3 人で両親に年金10%加給
・所得税率は家族数で低下
改革②
・出産、保育、教育の原則無償
改革③
・育児休業の充実 保育方法自由選択や補助手当
 父親・母親は柔軟に子育てを理由に職場からの対応を選べる

★第2段階としての具体策
・1999年、PACS(パックス)制定(PACSとは主に同性成人2名による、共同生活を結ぶための契約の締結及びその解消手続き)。
・これにより結婚しなくても安心して子供が生める。現状は小学校のクラスの半分程度の子らの親は正式の結婚ではなく、PACS制度上の事実婚のもとで誕生したと推定される。

  • 北欧ではさらに子供の父親の姓名が要求されない方向に動いている。

★「ラブロマンス」は許される
 ただし、男女の出会いがなければ子孫は増えないのは自明です。日本では、きわめて不器用でぎこちない男女関係の結果、予期しない破廉恥事案やセクハラ事件が後を絶ちません。
 都合14年、現地に溶け込むように生活したフランスやベルギーでは、老若男女問わず、また年の差も問題とせずにカップルが誕生しています。
 14年の駐在から得たヒントは、すべての人に「ラブロマンス」は許されるということです。お茶でも、ワインでも軽いタッチでお誘いすることはセクハラでもなんでないと聞きました。第1回目で、その誘いを拒否されたら、直ちに引き下がればよいそうです。彼らは男女ともにスマートです。
 わが日本も、少子化は全員が認識しています。政府の政策はフランスのとった方式を導入すればよいでしょう。それに加えて、スマートに男女の交際の幅を広げてゆくことが肝要と思っています。