卓話概要

2023年12月05日(第1840回)
笹川平和財団 安全保障研究グループ 上席研究員
渡部恒雄氏

2024年米大統領選挙予備選の展望

★内向き志向と分断が強まる米国内政
 12月2日に、アメリカの国防長官が米軍は3正面に対処できる能力があると述べました。「ウクライナ戦争」「ガザの戦争」そして「台湾有事」の3つです。
 ところがバイデン政権にとっては、戦いは実際には4正面です。もう1つ、国内における「共和党強硬派」があるからです。
 来年は大統領選挙ですから、アメリカは一斉に内向きになります。バイデン政権はますます内向きになります。
 そして選挙の結果次第では、トランプが再び大統領になるかもしれません。トランプは「アメリカ・ファースト」ですから、アメリカはますます内向きになります。
 このようにアメリカが手を縛られていると、それをチャンスだと思うような勢力が出てきます。するとアメリカの求心力が弱まり、国際情勢はますます混沌としてきます。世界は非常に難しい岐路に立っている、ということになるかと思います。

★直近の内政の焦点
 来年2024年1月19日が期限となる新たな「つなぎ予算」には、バイデン政権が求めていたイスラエルとウクライナ向けの支援と、共和党保守派が求めていた国境管理措置の強化や大規模な歳出削減という項目が含まれませんでした。超党派での協力が必要なのですが難しい状況です。
 解任されたマッカーシー下院議長に代わって、10月25日にマイク・ジョンソンが下院議長に選出されました。ジョンソン議長は、国境管理措置にもっと予算をいれれば、ウクライナ支援の予算も認めるという姿勢を示しています。たぶんここがジョンソン下院議長の落とし所だと思います。バイデン大統領もおそらくこれに乗るでしょう。
 ウクライナ支援がなくなれば、ロシアを勢いづかせ、結果的に中国も勢いづかせることになってしまう。日本から見ても重要な問題です。
 国境問題については、今年の5月から亡命申請した人には入国を認めることになりました。また、トランプが進めていたメキシコ国境の壁の建設は止めていたのですが、最近再開しました。国境警備についての共和党の予算要求は、バイデンにとっては渡りに舟だと思います。おそらく合意できないことはないとは思います。
 この問題が直近の米国政治と国際政治上の課題で、来年の大統領選にも影響するでしょう。

★2014年大統領選挙の見通し
 民主党は予備選を行いますが、現職の大統領が出るのでバイデンでほぼ決まりです。
 共和党は、世論調査でトランプが60%近くの支持を集めて、他の候補者をダブルスコア以上に離しています。こちらも、ほぼトランプで決まりという状況です。
 では、どちらが勝つのか? これは誰にも分かりません。
 バイデンの弱みの1つは、80歳を超えるという高齢問題です。もう1つは、経済問題。成長率は高く、失業率も低いのですが、インフレ率が高いのです。アメリカ人は今の経済が必ずしもいいとは思っていません。
 片や、トランプ政権時代は経済が良かったのです。運が良かっただけなのですが、トランプのほうが、経済政策がいいと思っているのです。
 バイデンが抱えているもう1つの問題は、若年層の支持を失っていることです。若年層はイスラエル支持が弱く、パレスチナの民間人被害に批判的で、イスラエル支持を継続しているバイデン政権への不満を反映しています。
 したがって、ガザでの戦争が来年の大統領選挙の頃まで引き続いたら、バイデンには不利です。ですからバイデンとしては、何とか来年の頭ぐらいまでには終わらせたいところです。
 バイデン政権としては、インフレをうまく収束させ、現在の成長率を維持するソフトランディングに成功し、その政策を有権者に上手にアピールすることが、来年の大統領選のカギとなります。

★もしトランプが再選されたら
 トランプが再選されて懸念されることの一つは、ウクライナでプーチン有利の形で仲裁をすることです。
 アメリカのある中国専門家は、台湾を犠牲にして中国の習近平とディールするのではないかと懸念しています。ただ、トランプ政権で起用されるのは対中強硬派が多いので、それはないのではないか、それより北朝鮮だと言う人もいます。トランプが米韓同盟を破棄し、在韓米軍を撤退させたいのは明白なので、北朝鮮との関係改善はその布石になると考えられるからです。
 トランプは現在、4つの訴追を受けています。だから法律を変えたりして自分を恩赦したい。そのためには「ノーベル平和賞」くらいの価値があるものが必要です。かつて北朝鮮の金正恩書記との非核化交渉の進展を理由に、ノーベル平和賞に値する業績をアピールしたように、ウクライナにおいても、プーチン大統領への親近感、および「ウクライナ支援の停止」をディールの材料にした停戦交渉を成功させ、自らの業績にすることも考えられます。