卓話概要

2021年12月07日(第1769回)
公益社団法人 日本証券アナリスト協会 参与
前原康宏氏

お札は無くなるのか?

★お札とは?
 「通貨」には、「現金通貨」と「預金通貨」があり、「現金通貨」は、日本銀行が発行している「お札」と政府が発行している「硬貨」からなっています。
 お札(日本銀行券)は、日本銀行の借金証書です。借金証書が転々流通するためには、皆さんが日本銀行は借金を踏み倒さないと信頼することが重要です。
 通貨の機能には、
① 価値の尺度(価値を測る尺度、計算単位)
② 価値の保蔵(資産価値の保存)
③ 交換の媒介(支払決済の手段)
という3つの機能があります。
 その中でも重要なのは「交換」であって、現金通貨の本質は、「交換の媒介」であると言ってよいと思います。「価値の保蔵」も、将来の交換価値を維持するために必要なものです。
 お札は、「アナログ的に交換価値を記録」したものであり、皆さんは
① 本物であるという確からしさをその場で確認できることや
② 複製する(偽造する)ことが難しいこと
を前提として日々お札を使っておられます。
 こうした前提を管理しているのが、お札を発行している日本銀行です。

★ビットコインの誕生
 2008年10月に、サトシ・ナカモトという人が発表した論文(Bitcoin : A Peer-to-Peer Electronic Cash System)を契機に、「ビットコイン」が誕生し、2009年1月に、世界で初めてビットコインの取引が行われました。
 ビットコインは、「ブロックチェーン」という技術で支えられています。このブロックチェーンという技術によって、先程述べましたアナログの世界で前提とされている、①本物であるという確からしさを「その場で」確認できることと②複製することが難しいことを、デジタルの世界で実現することができるようになりました。
 ブロックチェーンでは、お札の場合の日本銀行のような管理する主体が存在しません。本物かどうかは、当事者同士がその場で確認できるので取引が完結します。また、お札を偽造することが難しいのと同様に、暗号技術によって一度記録された情報を書き換えることは難しくなっています。このようにビットコインという「通貨」がお札にとって代わるのではないかと考える方もいらっしゃったのではないかと思います。
 この点について考えてみると、ビットコインは、
① 価格が乱高下しており価値が安定していません(価値の保蔵の機能を満たしていません)。
② セキュリティも十分に確保できていません(交換の媒介の機能も満たしていません)。
 先に挙げた通貨の3つの機能のうち、「価値の保蔵」と「交換の媒介」という2つの機能が保証されないのであれば、やはり「ビットコインは、お札にとって代わることはできない」というのが私の結論です。

★Facebookの「リブラ」の登場
 こうした中、2019年6月18日、Facebookが仮想通貨リブラの導入を発表しました。
 ビットコインとリブラを比較すると、ブロックチェーンという技術を使っている点は共通していますが、大きな相違点があります。
 ビットコインと異なり、リブラにはリブラ協会という組織が中央管理者として機能しており、セキュリティがより強固なものになっています。また、リブラは価格が安定するような仕組みが組み込まれているので、価値が安定しています。このため、リブラがお札にとって代わる可能性は高いものになったといえます。
 このため、2019年10月に開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議において強い懸念が示され、当面は発行を認めない方針が確認されました。その理由としては、
① 匿名性があるため、マネーロンダリングに利用される懸念があること
② リブラ協会は民間であり、公的セーフティネットでないので利用者保護や金融秩序への懸念があること
③ 国家の通貨主権に対する挑戦であること
などが挙げられています。

★中央銀行がデジタル通貨の発行へ
 こうしたリブラの動きもあって、世界の中央銀行はデジタル通貨の発行に向けて動き出しています。既にカンボジアやバハマでは中央銀行のデジタル通貨が発行されています。日本銀行では、2020年1月からデジタル通貨の研究を開始しています。
 デジタル通貨には、通貨に「情報の伝達」という第4の機能が加わることが大きな変化だと思います。例えば、デジタル通貨に請求書や納品書といった情報を埋め込むことができるので、企業がデジタル通貨を受け取ると、お金と同時に請求書や納品書に関する情報を受け取ることができます。これまでのように、お金と請求書や納品書が別々に動くのではなく、商売の流れ、物の流れ、金の流れが一体として動くことが可能になり、ビジネスに大きな変化が生まれることが期待されています。