卓話概要

2023年05月02日(第1819回)
落語家
入船亭 遊京氏

一席・柔軟・臨機応変で

★「ゼンターイ、笑え!」
 以前、少年院で落語をさせていただいたことがあります。会場は体育館でした。楽屋から外の声が聞こえてきました。
 ピッ、ピッという笛の音に合わせて、みんながイチ、ニと行進しています。刑務官の「ゼンターイ、止まれ!」「前へならえ!」「降ろせ!」という掛け声、そして挨拶が聞こえました。
 「今日は東京から一流の芸人さんたちが、わざわざ来てくださいました。皆さんがここに入らなければ、決して見ることのできない、貴重な機会です。面白いと思ったら、笑うように!」
 これではやりづらいですよ。私はそのとき前座だったのですが、なんとかつかまなくちゃと思って、開口一番、
 「ゼンターイ、笑え!」
 誰も笑わなかったですね。それに比べると今日は、いくらかやりやすいような気がします。

★自己責任でお願いいたします
 都内の演芸場といえば、上野鈴本演芸場、新宿末広亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場、あと永田町にも国立演芸場があります。
 永田町以外はだいたい、いわゆる繁華街にあります。
 池袋では放送がかかっていることがあります。
 「こちらは池袋警察署です。ご通行の皆様、客引きにお気をつけください。客引きの言葉は全部嘘です。お金をだまし取り、あとは知らん顔。店に訴えても、客引きとは無関係だ、何も知らないと言われます。大損するのは、あなたです」
 楽屋に入る前、こういう放送を聞いていると、何だか自分が言われているような気がしてきます。
 「こちらは池袋警察署です。ご通行の皆様、落語家にお気をつけください。落語家の言葉は全部嘘です。お金をだまし取り、あとは知らん顔。寄席に訴えても、落語家とは無関係だ、何も知らないと言われます。大損するのは、あなたです」
 今日もひとつ自己責任でお願いいたします。

★蕎麦の食べ方裏技講座
 今日はタイからの留学生の方もいらっしゃるということですが、落語はお聞きになったことがないのではないかと思います。
 落語家はよく、手拭いと扇子でいろんなものを表現します。
 手拭いが財布や鼻紙に変わったりします。扇子は刀や箸になります。
 落語といえば、やはり蕎麦ですね。今日は、蕎麦の食べ方裏技講座というのをやってみたいと思います。皆様もお土産になさってください。
 一番は、音の出し方です。これはコツがあります。舌先を前歯の裏側に付けます。そして舌の両側をほっぺたで押すようにして、それで吸うと、「ズ、ズー」という音が出ます。ぜひ、やってみてください。

★エビ天を入れるのにちょうどいい
 公演先の群馬でのお話。ご飯を食べようと食堂に入ると、80歳ぐらいの老夫婦がお二人で、天ぷら定食を召し上がっていました。
 すると電車の時刻が来たみたいで、そわそわしはじめました。見ると天ぷらがまだ残っているようです。婦人のほうはお持ち帰りがしたい様子で、バッグの中を何か探しています。でも入れ物が無かったようで、どうするのか見ていると、テーブルの上の自分のおしぼりが入っていた袋に天ぷらを入れはじめたのです。何とこれがエビ天を入れるのにちょうどいいんです。
 いつまでも夫婦仲睦まじく、たいへん結構だなと思いました。

★本日の落語
演目:「締め込み」