卓話概要

2022年05月17日(第1784回)
相模女子大学大学院 特任教授
白河桃子氏

経済視点からのジェンダー平等

★女性活躍とジェンダー平等
 2016年に「女性活躍推進法」(「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」)ができて、日本の会社はどこも、「採用者に占める女性比率」「管理職に占める女性比率」などで「女性を○%にしよう」という目標を持っています。ところが世界の流れ、投資の基準は、「女性活躍」というより「ジェンダー平等」です。ジェンダー平等の基準は、本来なら人口の構成比から男女は5:5でなければならない、しかしこの会議の場には女性が少ない(現状把握)、ではなぜこの場に女性が来られないのか、それは本当に女性の意志ややる気の問題なのか、そのハードルを取り除いて5:5まで引き上げるにはどうしたらいいか、それを考えるのがジェンダー平等です。
 ハードルとは何か。これは全体の構造の問題(働き方、職種、家事育児時間の隔たり)で、決して意識の問題ではありません。もう一つのハードルは、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)です。

★何のための女性活躍か?
 政府が言うからではなくて、何のために「女性活躍」に取り組むのか、という自社の視点をぜひ確認していただきたいと思います。
① 目的
 まず「女性活躍推進法」(2016年)があります。そしていちばん大きいのが「コーポレートガバナンスコードの改訂」(2021年)です。役員会だけでなく中核的人材の多様性、女性や外国人の割合を増やしていくことです。
投資家の視点としては、欧米でESG投資の比率が上がってきています。そのうちのS(Social)には「ジェンダー平等」が入っています。
 男女賃金格差の開示については、英国で義務付けられるようになりました。
 採用戦略的にも、女性が働きやすい会社はみんなが働きやすい、ということで学生にも人気があります。
② 現在地点の確認
 さまざまなダイバーシティのインデックスや指標の数字を見て、自社の現在地点を確認することです。
③ 目的の修正・経営層の理解
 経営層は、女性が活躍することが自社の利益とどう合致するのか、ということを考えることがとても重要です。女性のためだけでなく、会社の全員が生き生きと、いろいろなライフステージのもとで活躍できる、ということが可能な企業にするためです。
 今後採用する世代、若手が何を望んでいるのかを知ることも大事になります。
④ すべての人の活躍のために
 女性だけでなく、社員全員がウェルビーイング(心と体が健全で幸福)である、休む時間があってプライベートを楽しむ時間がある、勉強や成長する時間もある、それでこそさらに活躍が促進される──これがいまの考え方になっています。

★ジェンダー格差──経済と人権からの視点
 日本のジェンダーギャップ指数は、世界で120位というのが現状です。日本より下位にはイスラムの国しかありません。
 では、なぜ日本はジェンダー格差が大きいのか? 意思決定層すなわち政治の中心にいる人たちの同質性が高い、というのがその大きな理由の一つだと思います。
 構造的な問題として、税制度はどうするのか、保育園の数はいくつにすればいいのか、本気で推進する国や経済界の力が足りない、ということがあります。
 さらに根強い風土として、「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」「ステレオタイプ(世間的固定概念)の影響」などがあります。
 しかし海外のゴールドマンサックス証券会社や大手機関投資家であるステートストリート社などから、いろいろなプレッシャーがかかるようになってきました。
 これに対して日本でも動きはあります。「30%クラブジャパン」が設立され、女性役員の数を3割まで増やそうとしています。
 ESG投資の面からも、いま企業は女性の活躍、ジェンダー平等を急いでいます。

★なぜいま多様性が?
 なぜいまこんなに多様性(日本の場合は特にジェンダーダイバーシティ)が経営に求められているのでしょうか。
 多様性はイノベーションの源泉だと言われますが、多様性にはもう一つ、リスクを防ぐという価値もあります。
 日本の企業は非常に同質性の高い集団となっています。同質性の高い集団にはとてもリスクがあるのです。不祥事を起こす企業の特徴には同質性があります。
 たとえばデータ改ざんやハラスメント、企業広告の炎上などもそうです。やはりそこに多様な視点が足りなかったからです。
 なぜそうしたことが起きるのか。「グループシンク(集団浅慮)」が起きるからだと言われています。個人の総和よりもレベルの低い意思決定をしてしまうことで、社会心理学者のジャニスが提唱(1972年)して以来、さまざまな研究や防止策が論文になっています。
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 私たちの中には必ず「ジェンダーステレオタイプ」があります。それを自分で再確認し、それが自分の行動につながらないように心がけることが、今後ジェンダー平等を推進する上で重要だと思います。