卓話概要

2023年10月03日(第1834回)
スポーツ心理学博士
布施努氏

自分の最高を引き出す考え方~最前線で使われるスポーツ心理学

★早稲田実業で高校野球
 先ほど私のことを「スポーツ心理学博士」とご紹介していただきましたが、日本にはメンタルトレーナーとかはいらっしゃるのですが、スポーツ心理学という学問をベースにそれを生業としている人は、日本ではたぶん私くらいだと思います。現在、スポーツチームや企業のコンサルティング等の仕事をしています。
 高校時代は早稲田実業で野球をやっていました。有名な荒木大輔選手は高校の一つ下の後輩です。
 大学は一浪して慶應大学に行きました。
 卒業後は住友商事に入り、14、5年勤務しました。経理や営業で働いた後、最後は会社全体をマネージメントする業務部門の課長でした。

★組織づくりの面白さ
 住友商事では組織づくりの仕事をやっていました。高校や大学で野球というスポーツをやっていたときも、チームをどうやって強くしていくかという勉強をしていました。そういう経験から、人を中心とした組織づくりは非常に面白いなと思っていました。
 しかし、会社やスポーツを通じた経験値は結構あったと思いますが、それはあくまでも個人的なもので、汎用性はありませんでした。ですから、汎用性を身につけた組織づくりの専門家になりたいと思い、37歳のときに会社を辞めて、アメリカに留学することにしました。
 
★スポーツ心理学博士に
 ダン・グールドという世界で最も著名なスポーツ心理学の博士がいて、そこで研究したいと思いました。しかし、すぐには入れてもらえなくて、博士の弟子が教えていた修士課程でまずは2年間勉強することになりました。その後、ようやく博士のもとで研究することを許され、そして博士論文に合格し、スポーツ心理学の博士号を得ることができました。

★科学的に練習を行う
 スポーツ心理学というのは、科学の世界です。
アスリートの人たちが、スポーツ心理学を理解して、練習や試合に取り入れていくと、毎日が実験室のようになってきます。仕事でも同じようなことが起こります。
 スポーツも仕事も、正解は分からないので、「こうやってみようかな」「ああやってみようかな」という感じで進んでいきますが、その過程でデータをどんどん集めて、また「再仮説」を作りながら進んでいく、そのように科学的に練習を行うことで、目標を達成することができるようになってくるのです。
 企業においても、正解がない中で、「仮説」を作らないで動くことは、非常にリスキーです。仮説がないままで動くと、結果にしかフォーカスできなくなってきますので、分析のしようがない、ということになってきます。

★ライフスキル
 私が「ライフスキル」と呼んでいるものがあります。この「ライフ」というのは、自分がいま熱中できることを持っている、ということが条件です。スポーツが好きな子もいれば、ビジネスで頑張っている人もいます。年齢は関係ありません。皆さんも頑張ってピアノをやろうと思っているのなら、ライフスキルが身につくチャンスがあるということになります。
 一生懸命やっている瞬間に、スポーツ心理学を応用すると、スキルが身についてくるのです。

★仮説思考
 スポーツでもビジネスでも「結果」を出したいのです。しかし結果はすぐには出てこない。ですから、結果が出やすい行動を取り続けることが重要です。
 そこで「仮説思考」という考え方を使いながら、自分たちの「行動の質」を上げていくことになります。
 そのためには「関係性の質」ということが大事になってきます。聞いてくれる先輩がいれば、意見を言うことができ、「良かったな」と思える。その「関係性の質」が「思考の質」を伸ばし、「思考の質」が「行動の質」を上げる。そして「行動の質」が高くなると「結果」が出てくる、ということになります。
 「仮説」を入れるためには、その前に「判断」があります。そうするための「理由」があります。「理由」があるから、行動の後、「仮説」に対する「データ」が出てくるわけです。ですから「再仮説」を作ることができる。「再仮説」も合うかどうか分かりませんが、これを繰り返すのです。
 そうすると、将来の予測をするとき、そこには数字があります。しかもそこに「ストーリー」がくっついているのです。「こうしたい」「こうなるはずだ」といったストーリーが非常に重要で、その納得感があるかどうかです。
 しかもリーダーだけでなく、チームの一人ひとりが、この「仮説思考」を繰り返しながら行動することが大事です。
 「仮説」を使って、「実行」して、「データ」を取って、「再仮説」──この繰り返しが大切なのです。決まっていることを、効率よく何度も繰り返す「PDCA」との違いがここにあります。