卓話概要

2023年06月06日(第1823回)
フリーアナウンサー
中澤有美子氏

これからの「聴く力」の磨き方

★有能なキャッチャーは引っ張りだこ
 とかく世の中は、「話す人」が場の主導権を握り、能動的で華のある役割、一方「聴く人」は受け身で脇役、目立たない、そんなイメージがあるかと思います。でも本当にそうでしょうか。
 人というものはどうやら、「今日はAさんの話をたくさん聴いたな」というよりも、「今日はAさんにたくさん自分の話を聴いてもらったな」というときのほうが、一緒にいて楽しかったと思うようなのです。話を聴いてくれる人は、楽しい人なのです。みんな本音では、喋る側、野球のバッテリーで言うなら、投げる側、ピッチャーをやりたいのです。
 「すごいですね」「やりましたね」「いいことを教えてもらいました」などと相手から言われると、人は自分自身を受け止めてもらったと感じるからです。
 ところが実際には、人は「聴き手」、キャッチャーとしての役割のほうが多いのに、その自覚がなくて適当にプレーをしているので、世の中「こぼれ球」だらけなのです。
 ですから、有能なキャッチャーは引っ張りだこになります。ちょっとしたピッチャーの暴投も上手にキャッチして、できればストライクに見せてくれる、そういう上手な聴き手は、人気者にならないわけがないのです。うまく聴くことは、周りを幸せにする。キャッチャーは売り手市場なのです。

★「聞く」と「聴く」
 「きく」には、「聞く」と「聴く」とがあって、その間はグラデーションになっています。
 ふだんは、話の内容をそのまま受け取る意思疎通のツールとしての、「聞く」という行動をしています。こちらの「聞く」は、「伝達」「報告」「事務的」「明快」「スピード」といった特徴を持っています。
 一方の「聴く」は、もっと相手と親しくなりたい、あなたを大切に思っているということを伝えたい、人と人とのつながりをもっと手に入れたい、というような場面で必要なものです。「気持ち」「行間」「情緒」「感情」「労り」といった特徴を持ったコミュニケーションです。

★「聴く」ための実践編
 今日は、耳偏に十四の心と書く「聴く」のほうのお話です。大切な人に対して、この「聴く力」を使っていただくと、絶対に人間関係が変わってくると思います。
 では、「聴く」ときの〈基本のキ〉とは。
①遮らない
 ふだん人の話の腰を折ったり、ある程度聴いて分かった気になって「要はこういうこと?」などと言っている人は、「聴く」態度としては、論外です。相手の話をとことん聴くというのは、けっこう忍耐が必要です。丹田にぐっと力を込めて、ついうかうかと出てきそうな自分を止めることです。
②スリープモードにご用心
 聴き手の様子は、喋っている人からはよく見えています。自分が喋っていたときは生き生きした表情だったのに、話を聴く側になると途端に表情がお休みになったりします。それはとてももったいないことです。
③頷きは波のように
 「微笑」と「頷き」を絶やさない。それも相手の様子を見てからではなく、先出しが肝心です。さらに、頷きには大・中・小のメリハリが必要です。
 相手の話の内容に違和感があっても、そのまま頷いていて大丈夫だと思います。なぜなら、頷くのは、話の内容でなく、あなたを受け入れている、ということだからです。

★声を出すなら
 これまでは声を出さない場合でしたが、声を出すとすれば……というリアクションです。
①相槌(ア行・ハ行 ほか)
 「アー」「エー」「オー」や「ハー」「ヘー」「ホー」など、相槌を積極的に使ってみましょう。
②感嘆(感心・感動・称賛)
 「それはよかったですね」「知らなかった」「さすが!」などのちょっとした言葉。
③リアクション(代弁・オウム返し・言い換え)
 話し手の感情にできるだけ同化して、良いことはさらに増幅させる、マイナスの話はなるべく良いほうに返す。
④訊く(質問)
 適宜、質問をすると、興味を持ってくれたんだな、ということが相手に伝わります。

 「返報性の法則」というのがあって、人は、十分話を聴いてもらったな、十分わかってもらったなと満足すると、今度は相手の話を聴こう、お返ししよう、という心理状態になるのです。