卓話概要

2023年11月07日(第1837回)
国立長寿医療研究センター理事長・医学博士
荒井秀典氏

健康長寿のための正しい筋肉の鍛え方

★サルコペニア
 筋肉が衰えると、次のようなことが起こります。

  • 疲れやすくなる
  • 歩くのが遅くなる
  • 転倒しやすくなる
  • 平均余命が短くなる
  • 生活の質(QOL)が低下する
  • 病気になりやすくなる(糖尿病、認知症、骨粗鬆症、関節症、感染症(誤嚥性肺炎など)、脱水、熱中症など)
  • 認知機能が低下しやすくなる

     男女とも、50歳ぐらいから筋肉の量が減ってくることが分かっています。そして、あるレベル以下になった場合に、大きな問題が出てきます。それを「サルコペニア(Sarcopenia)」と呼びます。ギリシャ語のSarx(筋肉)とPenia(低下)を合わせた造語です。
     身体機能が低下すると、転倒しやすくなり、その結果、要介護ということになります。このようにならないためには、加齢はどうしようもありませんが、病気の管理をきちんとすると同時に、運動不足、栄養不足にならないようにして、筋力の低下を防ぐような生活を送る必要があります。


★サルコペニアに気づくきっかけ
 私たちのAWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)は、2014年にサルコペニアの診断基準を示し、2019年には以下の改訂版を出しました。
1.筋肉量の低下
2.筋力の低下(握力:男性28 kg未満、女性18kg未満)
3.身体能力の低下(歩行速度:1m/秒未満,SPPB:9点以下、5回椅子立ち上がり:12秒以上)
 サルコペニアに気づくきっかけは、次のようなことです。
【超早期】

  • 慢性疾患を持っている(糖尿病、COPD、心不全、腎不全)
  • 立ったままで靴下がはけなくなった
  • 5回椅子立ち上がりに10秒以上かかる
  • 階段を1段飛ばして駆け上がれない
    【早期】
  • 指輪っか
  • 息切れしやすくなった(心臓、肺は大丈夫)
    【すでにサルコペニア】
  • ペットボトルの蓋が開けられない
  • 横断歩道が青の内に渡りきれない


★栄養と運動
 筋肉が衰えた場合、今のところ治療のお薬がないので、「栄養」と「運動」しかありません。
サルコペニア高齢者には、次のような栄養と運動が必要になります。
【栄養】

  • 適正なエネルギー量の摂取
  • たんぱく質摂取量:1.2~1.5g/kg/日(重症の腎臓病は除く)
     ※たんぱく質を多く含む食品:シラス、鰯、マグロ、牛肉、鶏肉、豚肉
  • ビタミンD摂取量:20~25μg/日
    ※ビタミンDを多く含む食品:鮭、サンマ、カンパチ、卵、しめじ、椎茸
    【運動】(筋トレと有酸素運動の組み合わせ)
  • レジスタンス運動
    中等症の場合には週1回から
    軽症の場合には週2〜3回
  • 有酸素運動
    まずは10分歩行から開始し、8000歩を目標
  • バランス訓練


★筋トレとウォーキング
 筋力向上には、「筋トレ」と「ウォーキング」が大事です。

【筋力トレーニング】

  • 主要な筋(抗重力筋)をすべて鍛えられるよう8〜10種目の運動を実施する
  • ややきついと感じる強度で10~15回実施する
  • 運動強度は、最初は最小レベルから開始
  • 個人の状態に応じて強度を変更
  • 週に2回、48時間以上の休息をあける
  • 1回20~30分程度の時間で収まる程度にする
  • 呼吸や運動速度が一定の状態でできる運動にする
  • 痛みのない範囲で行う

【ウォーキング】(有酸素運動)

  • 運動強度は低いレベルから開始
  • 個人の状態に応じて強度を変更
  • 1日30分程度の中強度活動を推奨
  • 30分の運動を分割して実施しても良い
  • 週に3回は運動を実施したほうが良い


★お金だけでなく筋肉もためよう
 筋肉の衰えは40~50代にかけて始まります。
 やはり気づきが必要です。もし気になったら、できれば医療機関で握力を検査してください。または「5回椅子立ち上がりテスト」の時間を計ってみてください。
 高齢期になったら、たんぱく質やビタミンDをしっかり摂ることが大事です。食事をするためには、歯も大事です。
 50代からはしっかり筋トレをしてください。若いときからお金だけでなく、筋肉もしっかりためて、ぜひ健康寿命の延伸を図っていただきたいと思います。