卓話概要

2023年08月01日(第1829回)
東京大学名誉教授
月尾嘉男氏

日本消滅の危機

★国は絶えず興り、滅びている
 私はもう年なので先のことはあまり心配していないのですが、子や孫の世代を考えると、大袈裟ではなく、日本は本当に消滅するのではないかと心配しています。
 いちばん早い予測では、2、3年後には中国が侵攻してきて、日本は二つに分割される心配があり、地図までできています。
 吉田一郎さんという方の本によると、1945年以降、世界地図から消えた国は183か国になるということです。
 日本は2千年以上続いている安泰な国だと思っておられるかもしれませんが、世界規模で見れば、国というのは絶えず興り、滅びている、というのが常識です。
 たとえば、ベネチアは1100年続いて消滅しました。16世紀の中頃、オスマン帝国にレパントの海戦で勝利し、ベネチアは世界の中心のような地位を占めることになります。
 しかし、ポルトガルとスペインが世界に進出していくようになると、それまでのベネチアの優位は後退し、ベネチアは世界の片隅に置かれてしまうことになり、国力が衰退していきます。
 その原因の一つとして、いま日本が直面しているのと同様の未婚化、少子化の問題があります。16~18世紀のベネチアでは未婚の男性の比率が急増して衰退し、最後はナポレオンに降伏して、ベネチアは消滅しました。

★今世紀末に日本の人口は4500万人に?
 日本では出生率と死亡率が2005年に逆転しました。人口は2010年の1億2800万人が頂点で、以後は減少の局面に入っています。
 希望出生率(1.8人)でも、今世紀末には7800万人、希望的予測(1.35人)では4500万人になります。世界各国の人口減少率を比較すると、日本は世界で9番目です。
 起死回生の方法の一つとして、異論はあるでしょうが、婚外子をもっと社会的に容認する、ということがあります。チリは72~73%が婚外子、日本は2.3%、韓国は1.9%です。
 もう一つの方法は、移民を徹底して受け入れることです。アメリカの移民は5000万人、日本は277万人です。
 日本の食料自給率(カロリーベース)は、かつては80%以上でしたが、現在は38%に下がっています。
 資源もエネルギー自給率で見ると、日本は12%という、世界有数の低い国です。
 意外に思われるかもしれませんが、日本は世界でも貧困率の高い、非常に格差のある国になっています。ジニ係数(所得格差)の大きいほうから16番目、平均年収は世界で25番目、貧困層(年収300万円以下)は2000万人、生活保護世帯は165万世帯(全世帯の2%)となっています。
 21世紀に入ってから日本は停滞国家になってしまいGDPは増えていません。それにもかかわらず、政府の国債残高は異常に増えており、日本はGDPに対する借金の比率が世界で最も大きい国になっています。
 情報(デジタル)能力では日本は61か国中35番目、シンガポール、台湾、香港、韓国、中国より順位が下で、情報後進国になっています。
 科学分野の大学の評価は100番以内に東大と京大だけ、引用論文数は世界で15番目です。

★日本は日没の国か日の出の国か
 一方、日本には良い点もあります。
 日本の陸地面積は小さいのですが、海を含めた面積は世界で8番目になります。国土面積の10数倍の海を持っており、この資源を日本は活用することができます。
 GDPは落ちたとはいえ、まだ量では世界で3位、輸出額も5位です。国際特許申請数も世界で3位です。
 日本の誇るべきことは、パスポートの価値が世界一高いことです。ビザなしで入国可能な国が192か国あります。住みやすい国では16位、世界平和指数では9位、観光収入は7位、観光競争力は4位です。
 高度教育履修率は2位。OECDのテストでは、読み書き、数学、科学で1位を達成。
 男女とも平均寿命が世界一、健康寿命でも世界一です。
 殺人発生率が非常に低い安全な国です。
 祝日の数が世界でも多い国です。
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 以上のように、前半のグラフを見て、日本は日没の国だと思ってしまうか、後半のように、日の出の日本だと思っていただくかは、皆様の心次第ということで、これから頑張っていただければと思います。
 これまでお話ししたようなことをまとめて書いた本があります。『日本が世界地図から消滅しないための戦略』(致知出版社)という本です。出版社には、あと10冊しか残っていないということだったので、それを全部買い取って本日持ってきましたので、ぜひお買い上げいただければと思います。