卓話概要

2022年08月02日(第1793回)
NTT東日本関東病院 国立国際医療センター 耳鼻咽喉科医師
星野 志織氏

聴こえのお話~主として加齢による難聴について

★加齢による難聴の程度
 「加齢による難聴」は以前は「老人性難聴」と呼ばれていました。「難聴」とは、聴力・聴こえが低下することです。発覚のきっかけは耳が遠いということをご自身が自覚されることもありますし、周囲から指摘される場合もあります。
 「最近ちょっと耳が遠いかな」という主訴で受診されると、だいたい「軽度難聴」程度の感じです。日常生活にはほとんど支障はありませんが時に不自由だというレベルです。たとえば周囲で人が騒々しくしゃべっていたり騒音があったりする中で、相手に細かい内容の話をされるとよく聞き取れず「え?」と聴き返すことがある、というような程度です。
 「かなり聴こえなくなったか?」と思って受診されると大抵「中等度難聴」程度です。日常生活で不自由というのは、ご自身でも「え?」と何回も聴き返すことに気づき、ご家族から「さっきも言ったでしょう」、「大声で言わなければならないので疲れる」、「テレビの音が大きい、うるさい」などと言われてしまうレベルです。こうなると早々に補聴器を付けたほうが望ましいということになります。
 まったく聴こえない、というのは加齢による難聴というより、もともと耳の病気をお持ちで、さらにそれに年齢的な変化が加わって厳しい状況になった場合が多い印象です。難聴が高度になるとご自分が常に周囲から遮断された静謐な空間にいるという感じになります。そうすると社会からいつの間にか自覚がないまま疎外されていくようになります。

★難聴によって人との付き合いが疎遠に
 何となく耳が遠くなったかな、というのと同時に、耳鳴りがするとおっしゃる方も多いです。耳鳴りは非常に不愉快な症状ですが、特効薬がありません。しかし今は、「耳鳴り治療補聴器」といって、補聴器を逆に利用して耳鳴りに慣れていただくことで耳鳴りを少し和らげる方法や「耳鳴り治療音楽」など、お薬ではなく、違う方法で耳鳴りの苦痛を取り除く治療も始まっています。
 単に加齢による難聴の場合は、左右両方がほぼ同じ程度に低下していき、徐々に高い音が聴き取りにくくなります。若い女性の早口の声だと何を言っているか分からない、テレビでBGMと一緒に話すドラマのセリフが聴き取りにくい、話の語尾が聴き取れないことが多いので間違って聴いてしまう、などといった症状が増えてきます。誰かが何か言ったということは分かるが何を言ったかが正確に聴き取れない、大きな音が耳に響く、といったようなことも起こってきます。
 そうするとだんだんと話の内容は実は聴き取れていないのに「そうですね」とつい相槌を打ってしまうことが習慣化していきます。しかしそれは本意ではないので精神的に疲れ、出かけるのが億劫になったり人との付き合いがだんだん疎遠になったりします。

★補聴器を付けることでQOLが良好に
 難聴の方は、60代半ばでは3割程度ですが、75歳を超えると半数ぐらいになります。
 大半の方は補聴器を付けることがお嫌です。面倒くさい、人目が気になるなどが理由です。補聴器を付けると逆に耳が悪くなると思い込んでいらっしゃる方もいます。そんなことはありません。最近では上皇様や上皇后様、そして有名女優さんなども必要な場面では補聴器を装用なさっておられます。補聴器を付けている方のほうが、それまでの生活が保たれ周囲とのコミュニケーションもQOLも良好だということになるのです。補聴器には、「ポケット型」「耳穴型(耳穴挿入型)」「耳掛け型」など様々なタイプがあります。

★認知症の要因の一つに難聴が
 認知症に直結する老化の要因に、白内障や難聴があると言われています。白内障は手術をすればいいのですが、加齢による難聴には、治療方法はありません。でも補聴器で聴こえを補うことはできるのです。認知症をある程度食い止める、先延ばしにするためにも、聴こえは補聴器で補えるので早期の補聴器装用が非常に重要である、ということが欧米でも言われており、補聴器は広く一般に普及しています。
 加齢による難聴は治療法がなく耳鳴りも特効薬がありません。しかし補聴器を使ってできるだけよく聴こえている状態にしておくことはとても大事です。補聴器選びは耳鼻科で精密な聴力の検査をして、その検査結果を持って補聴器屋さんに行ってご自身の耳や聴こえに合った補聴器をお選びになることが大切です。
 人によって聴こえ方は千差万別です。まずご自身に合った補聴器を入手して、その後補聴器屋さんで何回も微調整をする必要があります。それによって若い頃の状態に近いような、快適によく聴こえている状況が戻り得ます。
 年齢的な難聴なので残念ながら時間の経過とともにさらに少しずつ進行します。それにも個人差がありますので、定期的に耳鼻咽喉科で聴力検査をすることをお勧めします。
 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会(旧・日本耳鼻咽喉科学会)は、補聴器相談医を全国で認定しています。ホームページに相談医の氏名と勤務先が掲載されていますので、ご参照ください。