卓話概要

2024年02月06日(第1845回)
一般社団法人パスウェイズ・ジャパン 代表理事
折居徳正氏

ウクライナの若者を人財として受け入れて

★ウクライナ避難民受け入れの概況
 2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻から、もうすぐ2年になります。侵攻を受けて1週間後、岸田首相が避難民の受け入れを発表しました。我々もすぐに日本語学校と大学で受け入れを始め、最初の学生が到着したのが5月でした。そして10月までに98人の学生を受け入れ、その後も追加の受け入れを行ってきています。
 1月31日現在、ウクライナから避難民として日本に入国した方は約2,500人、そのうち今もいらっしゃる方は2,103人です。約400人はその後日本を出て、ウクライナに戻られたか、あるいは他の国に行かれたことになります。
 2022年3月2日の岸田首相の受け入れ表明を受けて、政府・民間から、以下のような広範な支援が行われました。

  • ウクライナ避難民向け短期滞在査証の発給⇒ 特定活動の在留資格不要(就労可)⇒ 補完的保護も申請可能に
  • 身寄りのない避難民には政府より生活費、住居支援
  • 各自治体が公営住宅を無償提供
  • 日本財団が渡航費、住居整備費(50万円)、生活支援費(年間100万円×3年間)を提供
  • その他、民間より住宅提供、無償携帯電話提供、物資支援、各種相談窓口等


★ウクライナ避難民の課題
 一方、日本財団の「ウクライナ避難民支援アンケート」によると、ウクライナ避難民の課題として、次のようなことが挙げられています。

  • 日本語の習得(ほとんどできない、簡単な会話のみが77.9%)
  • 就労(不就労が55.9%、また就労者の77.2%はパートタイム雇用)
  • メンタルヘルス(皆が2つの現実を生きている)
  • 支援されることへの疲れ
  • 戦争以外のウクライナを知ってもらいたいとの思い
  • 日本人の友人作り


★教育パスウェイズ・プログラムの特徴
 「パスウェイズ(Pathways)」とは、「民間で難民を受け入れる道筋」という意味で、最近使われるようになった言葉です。教育を通じた道筋なので、「教育パスウェイズ」と言っています。
 もともとシリアの学生の受け入れから始まり、2021年からアフガニスタン、そして2022年からウクライナの方々も受け入れてきました。
 当初、大学は国際基督教大学だけだったのですが、ウクライナのことを受けて、ぜひ参加したいという大学が増え、現在18の大学で、また日本語学校も、全国23の学校が学費無償で学生を受け入れています。
 教育パスウェイズ・プログラムの特徴としては、次のような点があります。

  • Win-Winな関係で、紛争等で移動を強いられた若者を日本へ受け入れ
  • 日本に関心を持ち、日本語習得の意思、将来の目標を持つ若者を選考
  • 日本語学校または日本語教育可能な大学が学費無償で受け入れ、日本語を2年間かけて習得
  • 渡航費・在留資格取得を支援、来日前後にオリエンテーション、四半期ごとに面談
  • 日本語学校生は来日してすぐにアルバイトで自活
  • 高卒者は大学進学、大卒者は就職または大学院進学


★企業と協力した就活支援プログラム
 2023年に実施した就活支援プログラムには、以下のようなものがあります。

  • Bloomberg/Pathways就活メンターシップ・プログラム
    Bloombergと協業し、日英両語でキャリアカウンセリング、CV作成、就職面接準備のサポートを提供
    第1期/2023年9月〜12月(以後、継続予定)
  • SAPプロダクトのラーニングとインターンシップ
    SAPと協⼒してSAP Learning Journeysのオンライン・トレーニングと認証テストを無償提供、またパートナー企業でのインターンシップ機会の提供
    2023年7月から1年間(以後、継続予定)
  • 個別企業の訪問・交流
    関心を持つ企業を個別訪問、社員との交流などを行う。現状は2社で実施または調整中
    2023年7月から順次開催、今後も訪問企業を調整予定
    その他にも、「企業交流会」や「就活フェア+日本語講座」なども実施しました。

     なお、「パスウェイズ・ジャパン」は令和5年度の文化庁長官表彰を受賞しました。功績概要としては、「来日を希望する難民・避難民の若者を留学生として受け入れ、日本語を習得して社会で活躍できるよう日本語教育機関と連携し支援し、教育で未来を切り拓くという日本独⾃の支援スキームを確立させた。日本の国際貢献及び日本語教育の社会的意義の発信に大きく貢献している。」というものでした。