卓話概要

2025年05月13日(第1892回)
公益財団法人 陸修偕行社 理事長
火箱芳文氏

戦略3文書の評価と課題

★我が国を取り巻く安全保障環境の激変
 中国は軍事力を背景に既存秩序の一方的変更の試みを継続しています。台湾海峡・尖閣諸島での軍事活動を激化させており、私は「台湾有事」をたいへん心配しています。ロシアはウクライナ侵攻を機に中露の連携が強固になり、北正面は大きな懸念となっています。北朝鮮の核・弾道ミサイルは多種・多様化され、その脅威は一層増しています。
 我が国は米中間の戦略的競争の最前線にあり、冷戦期のように日米同盟に全面的に依存し、我が国の防衛努力を必要最小限で済ませる時代ではないと、政治・国民は認識すべきだと考えています。

「戦略3文書」とは
 「戦略3文書」は、2022年12月16日、岸田政権のときに成立しました。戦略3文書は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3つから成っています。

  1. 国家安全保障戦略
     外交・防衛に加え経済・技術・サイバー・情報に関連する政策に戦略的指針を付与。2013.12の「戦略」策定以来2回目。
  2. 国家防衛戦略
     我が国の防衛の目標を示し、それを達成するための方法手段を示す。「防衛計画の大綱」の名称変更。
  3. 防衛力整備計画
     我が国として保有すべき防衛力の水準、自衛隊の体制(概ね5年後と10年後を念頭)。「中期防衛力整備計画」の名称変更。

我が国が優先する戦略的なアプローチ
 優先する4つのアプローチは以下の通り。

  1. 危機を未然に防止し、自由で開かれた国際秩序を強化するための外交を中心とする取り組み。力のない外交は空疎。
  2. 我が国の防衛体制の強化
    *防衛力の抜本的な強化
      ①領域横断作戦能力、スタンドオフ・防衛能力、無人アセットなどを強化。
      ②反撃能力の保有。
      ③R9年度に予算水準をGDPの2%に。
      ④有事の際の海上保安庁との連携強化。
    *総合的な防衛体制強化(研究開発、公共インフラ、サイバー安保、同志国との協力)
    *防衛装備移転3原則・運用指針を始めとする制度の見直し検討
    *防衛生産・技術基盤の強化、人的基盤の強化など
  3. 米国との安全保障面における協力の深化
    米国による拡大抑止の提供を含む日米同盟の抑止、対処力の一層の強化。
  4. 我が国を全方位でシームレスに守るための取り組みの強化

国家安全保障戦略の評価と課題
【評価する点】

  1. 中国、北朝鮮、ロシアの動向に着目し、中国をこれまでにない最大の戦略的挑戦国、北朝鮮を従前より一層重大かつ差し迫った脅威、ロシアを中国との戦略的な連携と相まって安全保障上の強い懸念国と位置付けたこと。
  2. 反撃能力を保有し、防衛力の抜本的な強化、国としての総合的な防衛体制の強化を図り、防衛関係予算もGDP比2%に増額したこと、更に日米同盟の強化を謳っており評価できる。戦後の安全保障政策を実践面から大きく転換したという点で非常に評価できる。
    【課題】
  3. 防衛基本政策方針は変えない 
    憲法の下、平和国家として「専守防衛」に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とならず、非核3原則を堅持するとしている。
  4. 非核3原則(持たず、作らず、持ち込ませず)については堅持するとしている。
  5. 日米同盟の役割については当面変えないとしている。
    ※これらは「戦略的なアプローチ」と矛盾していないか、というのが私の考えです。

★国家防衛戦略の評価と課題
【評価する点】

  1. 防衛力の抜本的強化
    遠距離から侵攻戦力を阻止・排除する。
  2. 2027年までに我が国への侵攻が生起する場合は我が国が主たる責任を持って対処する。
  3. 今後5年間の最優先課題
    現有装備品の最大限活用。
  4. 国全体の防衛体制の強化
    ※自衛隊以外の各省庁所管の事項との取り組みが盛り込まれている。
    【課題】
  5. 陸・海・空自の定員を維持して抜本的強化を図ろうとしている。
  6. 定員と実員には乖離(1.5万人)があり、実員は増加?

★防衛力整備計画の評価と課題
【評価する点】

  1. 2023年から2027年までの歳出化経費の大幅増
    歳出総額43兆円(人件・糧食費11兆円、既定分5兆円 期間内歳出27兆円)
  2. 各種の事業を計画
    【課題】
  3. 戦車、火砲、普通科(歩兵)などの戦力の中身(人員、主要装備の数=機動打撃力)が低下していないか。
  4. 既存部隊の見直しや民間委託等の部外力の活用とあるが、限界ではないのか。
  5. 有人装備を削減とあるが、予備装備品として保有することも検討すべきか。
  6. 人的基盤の強化、衛生機能の変革は不十分。
     国を挙げて取り組むべき。