卓話概要

2025年09月09日(第1905回)
上智大学国際関係研究所 元客員研究員
佐々山 泰弘氏

日米安保と米軍地位協定
トランプ政権でどう変わる?

★地位協定とは
 地位協定の定義は:
 「軍隊派遣国の軍隊を合法的に受け入れるにあたって、軍隊派遣国と受入国との間に合意された公式、非公式の諸条件のセットであり、駐留軍及びその構成要員等の法的、行政的、経済・物質的諸条件を定める。」
 地位協定は、以下の3つの部分から構成されています。
①安全保障条約もしくはそれに類する基本相互条約、地位協定条文、その他安全保障関連合意条文、補助合意条文及び改訂条文
②これらに対応する国内法
③これらの合意を実行し、諸問題を解決するための共同協議機関、及び受入国の行政機関
 地位協定はなぜ重要かというと、安全保障条約は大原則は決めるが、その内容は抽象的かつ簡潔、具体的細目は地位協定によって合意され、そこに当事国間の真の関係が象徴的に表れるからです。

★地位協定の基本類型
 地位協定にはタイプI~タイプIIIがあり、タイプIは軍隊派遣国軍人・軍属のほぼ治外法権タイプ、タイプIIはその範囲を基地とその他合意された場所に限定するタイプ。タイプIIIは関係した事件の属性によって決定、裁判権競合的両立を認めるものです。タイプIIIはさらにA、B、Cの3つに分類され、タイプIII AはNATO加盟国やオーストラリア地位協定、タイプIII Bは現行の日本地位協定、フィリピン地位協定、タイプIII Cは韓国地位協定が属します。
 受入国にとっての有利度の順位は、タイプIII A>タイプIII B>タイプIII C>タイプII>タイプIとなります。

★グローバルな視点から見た日米地位協定の位置と特色
 タイプIIIの10か国中、第9位。とりわけ米軍基地と米軍活動への日本の主権行使力は極めて低く駐留軍経費負担が高いのが特色です。
① 司法・裁判管轄
 ・高い裁判権放棄率や米側裁判への関与が低い
 ・しかし被疑者起訴前引渡しなど、全体としてNATO加盟国なみと評価できる
②米軍基地に対する主権行使力
 ・占領時からの諸特権がそのまま温存
 ・日本の警察権行使や立入検査などの権限は極めて弱い
③米軍活動に対する主権行使力
 ・正文中に規定がなく、日本の「同意」項目もない ⇒ 米軍の自由裁量度は高い
 ・米軍事行動に対する規定はあいまい

 米軍の駐留経費負担が異常に高い。国民1人当たりの直接経費負担額(ドル)は、日本25.40、韓国10.03、ドイツ0.35で世界最大の経費負担。

★地位協定形体を決める6要因
 なぜ各国の地位協定にそんなに差がつくのか。そこには6つの要因があります。
①力関係の非対称性
②交渉方式の差異 ⇒ 多国間有利
③脅威認識の差異
④相互主義原則の働き
⑤受入国諸制度の対米近似度
⑥受入国の政体転換
 何れの項目も日本不利です。

★トランプ政権の世界安全保障政策
 率直に言って、トランプ政権に理念やイデオロギーに基づく世界戦略はありません。自由と民主主義の盟主としてのアメリカの役割を放棄しています。かつてカーター政権やマンスフィールド上院議員が追求したような世界基地網の縮小という戦略もありません。目標とする世界基地網戦略が明確でないので、その政策、戦略は全く不透明です。
 結果として共通の理念やイデオロギーに基づく同盟は弱体化するため同盟国は自国防衛力の強化に回帰し、世界は多極化と不安定化が進み、いま世界は軍拡競争のちょうど入り口に差し掛かっていると言えます。
 しかし、「アメリカ・ファースト」は孤立主義への回帰を意味しません。当面の政策は、低コストでの世界の覇権維持で、NATO撤退や日米安保改定といったドラスティックな行動はとらないと思います。
 基地網は維持しながら、欧州、日韓への基地コスト負担増や防衛費増を要求しています。
 NATOにはNAT第5条にコミットしないとの脅しをかけながら2025年6月ハーグ首脳会議にて加盟国防衛費の対GDP比5%達成を決議させました。
 日本には駐留米軍経費負担のさらなる増額とNATOなみの防衛費増(おそらく米軍兵器の購入も視野に)を迫ってくるでしょう。

★米要求に対する日本の抵抗力は弱いが…
 日本の対応としては、アメリカの要求を拒否することはできないでしょうから、伝統的な手法である日本の貢献度向上を長期的な目標に掲げてアメリカを説得し、かつ米軍駐留経費負担の実態を粘り強く説明してさらなる増加を抑え、防衛費増を日本の防衛政策に沿った形で、かつ実現可能な範囲で立案して交渉を進める、ということが求められるでしょう。