卓話概要

2025年11月25日(第1913回)
青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 教授
伊藤 晴祥氏

サステナブルファイナンスの実践は
社会問題を解決し企業価値を高めるか

★きれい事で終わらせてはいけない
 「サステナビリティ」というと、世の中に良いことをしなければならないというように、人々の美徳や価値観に訴えてそれを推進する動きがありますが、企業が行うサステナビリティは、成長戦略に結び付けることが大事で、きれい事だけで終わる話ではありません。
 サステナビリティの推進が企業の成長戦略に結び付いているかといえば、結び付いてはいないというのが多くの日本企業の現状です。
 サステナブルファイナンスも、企業の成長戦略や企業のリスク低減に資するようなサステナビリティの追求を目的として実行されるべきです。
 しかし、サステナブルファイナンスはさまざまな金融機関で注目されていますが、実際にそれが世の中を良くするために役に立っていはないというのが私の見解です。
 つまりサステナブルファイナンスのコンセプトは良いのですが、そのソフト部分がまだまだ備わっていない、というふうに考えています。

★サステナブルファイナンスとは
 サステナブルファイナンスとは、「持続可能な社会の実現を目的として、国、地方自治体、企業等がそのプロジェクト、活動、資産取得のために行う資金調達手段」です。
 一般的なファイナンス手法としては、
①デットファイナンス(負債、銀行借入等)
②エクイティファイナンス(株式による出資)
③プロジェクトファイナンス
の3つがありますが、日本ではデットファイナンスによるサステナブルファイナンスが中心で、成長戦略につながっていない一因であると考えています。
 高市政権が、「新しい資本主義実現本部」を廃止し、「日本成長戦略本部」を設置したのは良い傾向だと考えています。

★企業価値とは
 企業価値(V)は、キャッシュフローがgという一定割合で永久に成長すると仮定すれば、以下の計算式で表されます。
 V=E(CF1)/ (WACC-g)
 CF1:1期目のフリーキャッシュフロー
 WACC:加重平均資本コスト
 g:永久成長率
 企業価値を高めるためには、以下の方法があります。
①成長率を高める
②資本コストを減らす

  1. 負債コスト(金利)を減らす
  2. 株主資本コストを減らす
  3. 市場リスクプレミアム

    ③企業の期待存続期間を延ばす
     日本の場合は、金利や資本コストは諸外国に比べて一番低い水準ですので、gの部分が低いのが問題ということになります。
     PBR(Price Book Value Ratio:株価純資産倍率)というのは、株式への投資が投資額(簿価)以上の価値をもたらしているかを示す指標で、
     PBR=時価総額/純資産簿価
    で表されます。日本では、PBRが1を割っている企業が多いですが、PBRが1を割っているということは、株主の価値を棄損していることになります。その理由はgが低いからです。

★シングルvs. ダブルマテリアリティ
 良い世の中にしなければいけないという価値観でサステナビリティが説明されることがありますが、サステナビリティと企業価値を結び付けて考えることが大原則です。大きくは「シングル」と「ダブル」の2つの考え方があります。
①シングルマテリアリティ(Financial Materiality)
*企業価値や株主価値の最大化が目的
*サステナビリティの追求は企業価値最大化のために行う
②ダブルマテリアリティ(Financial + Impact Materiality)
*ステークホルダー価値の最大化が目的
*サステナビリティの追求は、多少企業価値が棄損されても行う
ざっくり言うと、「シングル」はアメリカや日本、「ダブル」はヨーロッパの考え方です。

★金銭的リターンと社会や環境へのインパクト
*リターン重視であれば、伝統的な証券投資、社会的インパクトを追求するのであれば、NPOへの寄附等の選択肢もある。
*どちらも追求したいのであれば、インパクト投資という選択肢もある。但し、どの程度経済的リターンを犠牲にするのかも考える必要がある。
*企業のミッションや存在目的、人々の価値観に合致した投資、活動、プロジェクトを行う。

 結論としては、以下のようになります。
①サステナビリティを成長戦略に結び付ける。
②真の意味でサステナビリティを実現するファイナンススキームの構築が必要。
③サステナブルファイナンスにより企業価値は高め得るが、マネーゲームになっている要素が多々ある。