卓話概要

2020年10月20日(第1740回)
出版科学研究所 所長
加藤 真由美氏

次代を担う子供たちの読書

★本との出会い 入口
 最近の出版業界関連の主な出来事を年表にすると、以下のようになります。
 2000年/子ども読書年・ブックスタート開始
 2005年/文字・活字文化振興法
 2010年/国民読書年
 2019年/読書バリアフリー法(6月施行)

 2000年の「ブックスタート」というのは、自治体が行う事業ですが、元々はイギリスで始まった運動です。赤ちゃんの定期検診のときに、絵本をプレゼントして、赤ちゃんと絵本が出会う機会を創出するというもので、日本での活動は、今年20年を迎えます。
 2010年は「電子書籍元年」と言われた年でもあります。同年「文字・活字文化振興法」が施行から5年目となり「国民読書年」が制定され、絵本を贈りあう文化の創造が宣言されました。
 昨年、2019年の6月に「読書バリアフリー法」が、障がい者の方たちの読書環境をきちんと整えていこうと施行され、今年は、基本計画が発表になりました。

★学校での「朝の読書」
 1988年に千葉県の私立高校で2人の教師によって提唱・実践された運動に、「朝の読書」というのがあります。先生方が中心になって実施しています。これは授業開始前に、原則10分、本を読む読書運動です。いつもにぎやかな学校が、この時間は、静寂に包まれます。「朝読」「朝読書」という言い方もされています。
 2020年3月2日現在の実施校数(全国の小学校・中学校・高等学校合計)は、2万6540校、実施率は76%となっています。「朝の読書」は開始から30年以上を経て、親子2世代、世代を越えた読書推進運動になっています。
【「朝の読書」の4原則】
① 毎日やる(習慣化)
② みんなでやる(一般化)〈先生も一緒に読む〉
③ 好きな本でよい(自由)
④ ただ読むだけ(学習色の排除)
 効果としては、次のようなことが挙げられます。
・言葉をたくさん知ることができた
・集中力がついた
・読解力がついた
・落ち着いた気持ちで授業に臨むことができるようになった
・成績が上がった
・いじめがなくなった
・他人を思いやる気持ちが身についた
・遅刻や不登校が少なくなった
 いずれにせよ、多くの児童・生徒が本を読むことで、精神的に安定し、考えたり、自分と向き合えるようになる、という効果があると考えています。

★ビブリオバトルや絵本
 いま注目されている「ビブリオバトル」や「絵本」も学校での読書と深く関わっています。「ビブリオバトル」は、自分が読んで気に入った本をそれぞれの言葉で、みんなの前で紹介し、その話を聞いた人たちに、「どの本が読みたくなりましたか?」と尋ね、投票によって順位を決めるという、ゲーム感覚を取り入れた書評合戦です。いま小学生から高校生、大学生にも人気で、全国大会も開催されるほど大々的に行われています。

★「朝の読書」に絵本を
 絵と文章からできているコミックは、子供たちが大好きです。学習漫画も人気です。そこで、いま、注目されているのが「絵本」です。
 絵本の特徴としては、
・大切なことが凝縮されている
・テーマが絞られていてわかりやすい
・関心の有無をつかみやすい
・好き嫌いがすぐわかる(絵のタッチなど)
・1冊読み終えるのも書籍に比べて簡単(達成感を味わいやすい)
・読み継がれる
などが挙げられます。
 学校での「朝の読書」がまもなく20年となる平成18(2006)年に、“読書が楽しいことだと知ってほしい。お家(うち)でも本を読んでもらえたら”と、「家読(うちどく)」が誕生しました。「家読」は、家族で同じ本や絵本を読んだり、感想を話し合ったりする、本を「コミュニケーションツール」として語り合う運動です。

★次代を担う子供たちのために
 最後に、次代を担う子供たちの読書ために、大事だと思われる点をまとめておきます。
*紙の本を読む子供は、紙でもデジタルでも読むが、デジタルで読む子供は、紙では読まない傾向がある。
*本は、読もうと思わないと読めないもので、自分のためになったり、面白くなければ誰も読まない。本を開く行為や読んだ経験が貴重になり、特別なことになる時代が到来。
そのためには、
 本が身近にある環境(本棚復活)を整え、大人が本を読む姿を見せてください。 読まなくても本を開いて“ワハハ”と笑うことが効果的です。(楽しさを創出し、興味をもたせる)