卓話概要

2023年07月11日(第1827回)
韓国「統一日報」主幹・元駐日韓国大使館公使
洪 熒(ホン ヒョン)氏

尹政権の直面する内外課題と日韓関係

★韓国は4つの戦争をしている
 韓半島はゼロサムの戦争です。米軍とソ連軍が占領して、その相克の体制がそのまま固着したので、お互いに妥協できない戦いなのです。
 いま韓国は4つの戦争をしているのです。78年間続く「南北間の戦争」、韓半島を支配しようとする「中国との戦争」、「内戦」、そして「文明の戦争」です。私も新聞を作るときはいつも、この4つの戦争の中で、いま起きているのは何なのかを見るようにしています。
 韓国の選挙は、同時に平壌の選挙です。同時に中国共産党(CCP)の選挙であり、同時にワシントンの選挙です。つまり、韓国に影響を及ぼそうとする勢力はすべて、韓国の選挙のとき、自分たちにいちばん有利な結果を導くために、見えない形で積極的に介入します。
 いま金正恩は韓国に対して、先制的核攻撃を法制化しています。韓半島は、1945年8月以降ずっと戦争中なのです。

★日韓関係は良くなった?
 日本と韓国の関係は良くなったと言われます。しかし専門家の私から見れば、日本と韓国の歴史的経緯だけを見れば、仲直りを急ぐ気持ちでなかったとしても不自然でありません。
 日本は韓半島を併合したが、戦争で敗れて失った。失った国と仲良くする必然性はなかったのです。今の構図は、戦後アメリカが「仲良くしなさい」と要求したのです。「日本と韓国は友好な関係で、同盟しなければならない」。これはアメリカの世界戦略によるものです。もちろん、敵対するのは愚かなことですから、私は今の日韓の選択と努力は正しいと思います。

★韓国は反日国家なのか
 韓国は、親日でなければならない理由もありませんが、決して「反日国家」ではありません。「反日感情」といいますが、感情は時間が経てば記憶が薄れて、恨みもなくなるのです。ところが韓国の「反日」はますます強くなる。それはこの「反日」がイデオロギーであるからです。「反日イデオロギー」は、韓国を社会主義体制に変えようとする職業革命家たちによって、限りなく作られるイデオロギーなのです。
 パンデミックの前には、年間700万人の韓国人が日本にやって来ました。中国人も一時、韓国人の数を上回っていましたが、平均的に見ればやはり韓国人がいちばん多かったのです。
 日韓関係の離間を煽るメディアの報道ばかりに頼っていたら、いつの間にか韓国は反日国家になってしまったのです。

★韓国国民の安保志向
 韓国の国民の安全保障志向は、次の5つに分類されます。
韓米同盟派(米国例外主義、パックスアメリカーナは長く続くと思う)
 韓国の国民でいちばん多い、いろいろな欠点があってもアメリカはすばらしい国だとする考え方です。私は時代遅れだと思います。
従北派(大韓民国へ反逆)、憲法の上に「民族」や「民主化」を置く、体制に物理的に抵抗
 盲目的に北について行く。彼らは韓国の憲法を否定する。彼らによって、いまの反日のイデオロギーが拡大再生産されています。
親中派(大韓民国へ反逆)、CCPの「超限戦」部隊、(anti CCPが80%超)
 1992年以降、韓半島を支配するのが中国の目標です。しかし今の韓国では、アンチ・チャイナが8割以上です。アンチ・チャイナが同時に反日になれますか? 反日が同時にアンチ・チャイナになれますか?
親日派(韓日・韓日米同盟派)
 私も含めて、彼らは今までメディアから完全に黙殺されていましたが、文明史の転換期にあって、日本と韓国は協力して生き残らなければいけない、と主張しています。
親ロシア派(文明史のパラダイムの変化に対応)
 グローバルサウスを我々の味方に、という人たち。ウクライナ戦争のバタフライ効果として、G7 + NATO(EU)vs. BRICS + SCO + EAEU(40カ国以上)、あるいは帝国主義(植民主義)の歴史vs.搾取された記憶、という国際秩序の変化が、すでに始まっています。

★尹政権の今後
 尹錫悦氏は、27年間役人生活を送って大統領になりました。選挙の経験もなく、与党内に自分の権力基盤はゼロだったのです。いま尹大統領を支持する人は、無条件の支持者と条件付きの批判的な支持者を合わせても、全体有権者の4割まで行きません。
 尹大統領は来年の総選挙で絶対、自分の勢力を拡大せねばならない立場です。総選挙の後も任期が3年も残っているのですから、もし選挙で失敗すれば、その後はレームダックの状態になってしまいます。
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私は後輩に対して、戦いにおいては3つのことを忘れてはならないと言っています。

  1. 私を殺さないものは、私をいっそう強くする。(ニーチェの言葉)
  2. 希望があるから戦うのではなく、戦うから希望が生まれる。
  3. 先に諦めるほうが負ける。