卓話概要

2025年05月27日(第1894回)
医師・作家
米山公啓氏

脳の若さを保つ方法

★認知症予防に特別なものはない
 今日は「脳の若さを保つ方法」というテーマですが、認知症の話になってしまうかもしれません。統計的には3分の1ぐらいの方がボケるわけです。認知症の薬として、いま出ている薬はほとんど効果がないと思ってください。だから予防が重要ということになります。しかし結論を先に言うと、特別なものはありません。とすると今日のお話はこれで終わってしまいます。
 これをやっていればボケないというようなものはありません。しかしこれをやっていたほうがボケにくいとか、そういうデータはたくさんあります。それを複合的に積み重ねていくしかない、というのが現状です。

★「海馬」は使うほど増える
 脳の神経細胞は年齢とともにどんどん減っていきますが、21世紀になってから、一部の神経細胞は年齢に関係なく増える、特に「海馬」という記憶に関係する場所は、使っている人ほど増える、ということが分かってきました。
 最近出てきたデータでは、タクシードライバーや宅配の運転手はボケにくいというのがあります。想像するに、彼らは地図を覚えなくてはなりません。そういうことをやっていると海馬の細胞が増える、ということは以前から研究で分かっていました。つまり脳は使わないとダメになるし、使えばボケにくくなるということです。要は、神経細胞同士のつながりを増やすことがボケにくい脳を作る、ということは間違いありません。

★血圧・糖尿病・コレステロール
 若さを保つためには、この3つしかありません。つまり生活習慣病の予防です。「血圧」「糖尿病」「コレステロール」、この3つの数値は下げておいたほうがいいと思います。
 血圧は130/80 mmHgぐらい、LDL(悪玉)コレステロールは160 mg/dL以下、血糖は最近基準値が緩くなりました。というのは、あまり下げると低血糖が起きて寿命が短くなる、ということが分かってきたからです。この3つを治療するには、手っ取り早く言えば、薬を飲んでしまったほうが早いと思います。

★ MCI(軽度認知障害)
 脳にとってマイナスなものはストレス、心配事です。
 MCI(軽度認知障害)というのがあります。物忘れだけがちょっとひどい人です。いちばん簡単な物忘れのテストは、昨日の食事で何を食べたか覚えているかどうかです。
 軽度認知障害は認知症ではありません。正常と認知症のあいだです。軽度認知障害の1割ぐらいがアルツハイマー型のボケになります。大半の方は物忘れだけで、それ以上あまり変化しません。
 そういう物忘れは、ストレスが多い人に多いです。ですから、ストレス回避をうまくやらなければいけないということになります。

★認知症予防には運動を
 いちばん確実なボケ予防は運動、体を動かすことです。これは間違いないです。信頼度としてはかなり高いです。
 ただ、運動といってもいろいろレベルがあります。認知症予防の運動というのは、ランニングやウォーキングを何キロもやることではなくて、1日4~5千歩、歩くことで十分なのです。体を動かすことで脳の血流が増え、神経細胞伝達物質が増えるのです。ゴロゴロ寝ていてはダメです。
 酒、タバコは全く飲まないほうが認知症の発症率が低いというデータがあります。ですから「脳の若さを保つ方法」としては、禁酒・禁煙をするしかないということになります。
 食べ物は、これを食べたらボケないというものはありません。唯一、緑黄色野菜を食べている人はボケが少ないということはあります。
 昔は、趣味のある人はボケにくいと言われていました。しかしもう一歩踏み込んで考える必要があります。自己満足でなく、絵画や彫刻などで芸術性のある自己表現ができれば認知症予防効果はありますが、そこまでやるのはなかなか難しいです。

★「新しい体験」を
 考え方を切り替える、プラスに持っていくというようなことは、人間の脳がいちばん発達したところ、「前頭前野」にしかできません。
 しかし前頭前野は年齢とともに萎縮してきます。それは認知症の引き金にもなってきます。前頭前野を鍛えるためには、少し大変なことをやらなければいけません。簡単なことではなく、ちょっと面倒臭いことをやらないと、脳を活性化させることは難しいです。趣味の世界を楽しむのはもちろんいいことですが、それを脳活性化まで持っていくには、かなりレベルを上げていかないと難しいということです。
 結論としては、認知症の予防で私たちができることは、「新しい体験」をしていくこと、これに尽きると思います。新しく何かを作ることが、人間としての存在理由ではないかと思います。